元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「SHORT PEACE」

2013-08-10 08:33:47 | 映画の感想(英数)
 4話オムニバスのアニメーション映画だが、第四話の「武器よさらば」が飛び抜けて面白い。大友克洋の同名短編をカトキハジメが映画化したもので、廃墟と化した近未来の東京を舞台に、五人からなる特殊部隊と暴走した自走式戦車とのバトルを描く。

 この戦車は東京を壊滅させた“先の戦争”の遺物だと思われ、近付く者を容赦なく自動的に攻撃するため、これらを取り除かないと復興は覚束ないらしい。五人は最新装備を駆使して一台ずつ探し出して“処分”するのだが、これがそう簡単にはいかない。戦車は圧倒的なパワーを有しており、綿密な連携の元に事に当たらないと、こっちがやられてしまう。

 映画は地下道に潜んだ戦車を除去するくだりがクライマックスになるのだが、神出鬼没の戦車に手を焼き絶体絶命の危機に陥る五人の悪戦苦闘を、畳みかけるような筆致で描いている。精緻な作画と非凡なキャラクター造型とメカのデザイン、効果的な音響など、短いながらも長編一本分のヴォルテージの高さを達成している。人を食ったようなオチも絶品だ。

 さて、これに比べると残りの3本は消化不良の感がある。第一話の森田修平監督による「九十九」は、嵐の山中で道に迷い、朽ち果てたお堂に逃げ込んだ男が遭遇する怪異譚だ。古い器物に宿るとされる九十九神が大挙して現れるシークエンスは映像面ではとても面白いが、ストーリーは捻りが無い。

 第二話「火要鎮(ひのようじん)」は大友克洋が久々に演出を担当した一編で、18世紀の江戸を舞台に、幼なじみの火消しの男を思い詰めるあまり、大火事を引き起こしてしまう町娘を描く。絵巻物を思わせる映像構築は素晴らしいものがあるが、尻切れトンボみたいな筋書きは釈然とせず映画としては面白いものではない。

 第三話安藤裕章監督の「GAMBO」は戦国時代の東北の山奥を舞台に、人間の言葉を解する白い熊と“鬼”と呼ばれる宇宙生物との戦いを描く。バトルものとして良く出来ており、終盤の展開には手に汗を握らされるが、物語のディテールがほとんど説明されていない。これは短編ではなく、長編映画の一部分を切り取ったような印象を受ける。長尺の“本編”の製作を望みたいところだ。

 アニメーションのオムニバス物としては過去にも「MEMORIES」や「迷宮物語」などの作品があったが、いずれも“数本でひとつのテーマを形成する”といった目的よりも“単品では劇場公開が難しい短編を寄せ集めた”という感が強い。まあ、興行上の観点からは仕方ないのかもしれないが、少なくとも各短編に何らかの共通性を持たせた方が、映画としては訴求力が増すと思う。
コメント
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