実につまらない。娯楽性が著しく欠如した作者の自己満足を延々と全面展開してもらっては、観る側は盛り下がるばかりだ。主演の安田顕に対して強い思い入れのある観客以外は、チェックする必要は無いと思う。
主人公の亀岡はデビュー以来ずっと脇役で、話題作から自主映画まで、声がかかればどんな役でも応じてきた。いつの間にか中年になってしまったが、未だ独身。それでも飾らない人柄で現場での評判は良く、これからも仕事が途切れることは無いようだ。そんな彼が長野でのロケの際、フラリと立ち寄った居酒屋で、そこの若女将に惚れてしまう。どうにかして想いを伝えたいが、次々とオファーされる役柄をこなさねばならず、チャンスは容易に巡ってこない。それでも何とか時間を作り、意を決して単身長野まで出向いた彼だが、意外な結末が待っていた。
要するに、主人公が仕事先でイイ女と知り合い、告白するために再び会いに行ったという小振りのプロットがメインだ。それ自体は可も無く不可もなしで、オチも読めるし、特筆すべきものは無い。では、2時間を超える上映時間の中で、残りの部分は何が占めているかというと、これが作っている者達だけが面白がっているような毒にも薬にもならない与太話ばかりだ。
海外の有名監督のオーディションを受けて出演が決まってどうのこうのとか、普段は受けない舞台での仕事を気まぐれにやってみてどうしたこうしたとか、まるで笑えず、もちろん泣けず、出るのはアクビばかりという退屈なエピソードが漫然と並んでいる。
監督の横浜聡子の作品を観るのはこれが初めてだが、才気のかけらも感じられない仕事ぶりだ。とにかく、思わせぶりに映し出される心象風景らしきモチーフには冴えたイマジネーションやひらめきは見当たらない。インパクトのある場面なんか、どこにも無いのだ。いったい、どこをどのようにすれば斯様な訴求力の無い企画が通ってしまうのか、まるで理解不能である。
主役の安田は、過去に少なからぬ数の映画の中で見かけているはずだが、印象は薄い。本作においても同様で、ただ人当たりが良くて酒が好きなオッサンというキャラクターを、無難に演じているに過ぎない。
ヒロイン役の麻生久美子をはじめ、新井浩文、染谷将太、浅香航大、杉田かおる、三田佳子、山崎努と、脇の面子はかなり豪華。マネージャーに扮した工藤夕貴に至っては“声だけの出演”である。ところがそれらのキャスティングが効果的かというと、全然そうではない。単に監督の顔の広さを示したに過ぎないように思う。良かったのは大友良英の音楽と、映画作りの舞台裏が少しだけ覗けるところぐらいだろうか。いずれにしても、カネを払って劇場で対峙するようなシャシンではないことは確かだ。