元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「客途秋恨」

2018-11-18 06:30:06 | 映画の感想(か行)
 (原題:客途秋恨)90年香港=台湾合作。興味深い映画だと思う。監督アン・ホイの自伝的作品だが、彼女自身が多様なルーツを持ち合わせており、民族や国籍などのアイデンティティにどう対峙するかという、グローバルかつセンシティヴな課題に向き合っているあたりがポイントが高い。

 1973年、ロンドンに留学していたヒューエンは、妹の婚礼に立ち会うために故郷の香港に舞い戻る。母親の葵子は娘の結婚にとても喜んでいたが、実はヒューエンは長らく母とうまくいってなかった。葵子は日本人で、かつて解放軍の通訳だった夫と結婚してマカオに移り住んだのだ。しかし、旦那は仕事で不在がちで、しかも日本人に対する周囲の視線は冷たいものだった。



 幼かったヒューエンにはそんな母の事情を推しはかる余裕はなく、親子の仲は悪くなるばかり。成長したヒューエンが家を出たのは、そのためだった。妹の結婚式が終わった後、葵子は里帰りしたいと言い出す。一人で行かせるのを心配したヒューエンは、母親に同行して大分県の別府・由布院を訪れる。

 葵子は慣れない異国の地で苦労し、娘のヒューエンはヨーロッパで異邦人としての孤独を味わっている。彼女の祖父母は広州に住んでおり、病床の祖父を見舞ったヒューエンは香港と中国本土との差異を実感する。そして何より、彼らのホームグラウンドであるはずの香港やマカオも、中国と西欧との十字路なのである。

 また本作に台湾資本が入っていることも重要で、言うまでもなく中国と台湾は微妙な関係にある。複数の文化に翻弄され続ける登場人物達だが、それでも時が流れれば分かり合える契機が生じ、決して悲観することはない。

 アン・ホイの演出は丁寧で、派手さは無いがきめ細かく各キャラクターの内面をすくい取る。主演のマギー・チャンと葵子に扮するルー・シャオフェンは好演。レイ・チーホンやティエン・ファンといった脇のキャストも万全だ。

 加地健太郎と逸見慶子の日本人キャストの演技、および日本ロケの場面は違和感はあまり無い。しかし、久大本線を走る列車に“JR”の表記があったのには苦笑してしまった(73年当時はまだ国鉄は民営化されていない)。
コメント
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