元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「真実」

2019-11-02 06:29:03 | 映画の感想(さ行)
 (原題:LA VERITE )日本人演出家が撮った外国映画としては、目立った破綻も無く本場のフランス映画としても通用する“体裁”は整えていると思う。しかし、ストーリーが面白くない。さらにはこれが淡々と抑えたタッチで進行するため、観ている間は眠気との戦いに終始した。同じ話を、日本を舞台に国内キャストで作った方が、まだ興味は持てたかもしれない。

 国民的大女優ファビエンヌ・ダンジュヴィルが、自伝本「真実」を出版することになった。ニューヨークで脚本家として活動する娘のリュミールとその夫と娘、ファビエンヌのパートナーと元夫、長年彼女に寄り添った秘書らが祝いのためパリ郊外のファビエンヌの家に集まる。彼らの興味は自伝の中身だったが、そこには周囲の人間が期待するものとは違う内容であり、波紋が広がる。そんな穏やかならぬ空気の中、ファビエンヌは新作の撮影に入る。



 自伝には別に驚くようなことは書かれていない。有り体に言えば“何が書かれていないのか”が問題なのだが、それはセンセーショナリズムを喚起するようなことではない。強いて挙げれば同じく女優であり、若くして世を去った妹サラに関して言及されていないことが問題になってくるが、そこからドラマを大きく盛り上げてくる仕掛けは見当たらない。全ては起伏が無く平坦に綴られるのみだ。

 ここで主演のカトリーヌ・ドヌーヴの姉であり、早世したフランソワーズ・ドルレアックの存在を彷彿とさせるような展開に持っていけば映画の求心力は高まったと思うのだが、作者にはそこまで踏み込んでいない。ファビエンヌが主役を演じるSF仕立ての新作の内容が、この自伝と大きくクロスするようで全然していないのも不満だ。

 監督の是枝裕和としては、何やらドヌーヴと娘役のジュリエット・ビノシュと仕事をしただけで満足しているような様子で、いつもの登場人物に対する深い内面描写が見られない。娘婿役のイーサン・ホークは手持ちぶさたの感があり、マノン・クラヴェルやリュディヴィーヌ・サニエといった脇の面子も機能しているようには思えない。

 もしもこれが樹木希林が主演で、娘の内田也哉子との関係性を匂わせるような作劇ならば面白くなったかもしれないが、残念ながら樹木希林はもういないのだ。ただ、エリック・ゴーティエのカメラによる映像はキレイだし、アレクセイ・アイギの音楽も悪くない。その点では存在価値はあるだろう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする