元・副会長のCinema Days

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「パーフェクト・ドライバー 成功確率100%の女」

2023-02-06 06:18:50 | 映画の感想(は行)
 (英題:SPECIAL DELIVERY)ジョン・カサヴェテス監督の「グロリア」(80年)に、あまりにも似ていることに驚いた。ならば“単なるモノマネ”なのかというと、それは違う。基本設定と展開こそ共通しているが、現時点で韓国映画においてこのネタを扱うだけの御膳立ては整えられている。作劇のテンポは良好で、各キャラクターも“立って”いる。楽しめる活劇編だ。

 釜山にある“ワケあり物件専門の配送会社”で働く凄腕ドライバーのチャン・ウナは、海外逃亡を図る野球賭博のブローカーとその幼い息子を、ソウルから釜山港まで送り届けるという仕事を引き受ける。ところが、掛け金の横取りを狙う悪徳警官によって依頼人は始末され、ウナは貸金庫の鍵を握りしめた残された息子だけを車に乗せる。悪徳警官側は猛追を開始するが、同時にウナの経歴に興味を持つ国家情報院も介入する。



 裏稼業に携わるヒロインが子供を押しつけられ、決死の脱出劇を繰り広げるという筋書きは「グロリア」と同じだ。ついでに言うと、一人暮らしで猫を飼っているという設定も一緒である。だが、「グロリア」の主人公が酸いも甘いも噛み分けた年増女であったのに対し、本作のヒロインは若い。その代わり、北朝鮮から亡命し、その際に家族をすべて失っているという設定を用意した。つまり、背負っているものは「グロリア」と同じぐらい重いのだ。そんな不遇な過去を持つウナが、柄にも無く子供と心を通わせていくプロセスは説得力がある。

 脚本も担当したパク・デミンの演出は闊達で、ドラマが滞ることはない。売り物のカーチェイス場面は密度が高く、入り組んだ釜山の裏通りを疾走するシークエンスはスピード感や段取りが練り上げられている。だが、残念ながらカーアクションは後半には出てこない。できれば終盤でもう一回派手なカークラッシュ場面を見せて欲しかった。

 主演のパク・ソダムは「パラサイト 半地下の家族」(2019年)での好演が記憶に新しいところだが、本作では見事な“小股の切れ上がったイイ女っぷり”を披露していて、思わず惹き付けられてしまう。聞けば健康面で不安を抱えた時期があったらしいが、今後も活躍して欲しい。ソン・セビョクにキム・ウィソン、ヨン・ウジン、ヨム・ヘラン、そして子役のチョン・ヒョンジュンなど、その他のキャストも好調だ。ホン・ジェシクによる撮影、ファン・サンジュンの音楽も申し分ない。
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