元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ヴィレッジ」

2023-05-20 06:04:51 | 映画の感想(あ行)

 最後まで退屈することなく観ていられたが、藤井道人監督作品としては「デイアンドナイト」(2019年)と構図が似通っている。とはいえ“過去作をトレースしているからダメだ”とはならない。同じパターンの繰り返しでも、自家薬籠中の物としてうまく仕上げれば文句は無いのだ。それどころか、この題材は我々が向き合っている問題の実相を反映しており、何回採用しても構わない。

 山梨県の山あいにある集落・霞門村(かもんむら)に暮らす片山優は、村にあるゴミの最終処分場で働いている。実は彼の父親はこの施設が建てられる際に反対運動を起こし、果ては敵対する者たちを殺害した後に自殺していたのだ。そのため職場では阻害され、先の見えない境遇に甘んじている。そんなある日、上京していた幼なじみの美咲が村に戻ってくる。彼女は昔から優を憎からず思っていたのだが、処分場の支配人である村長の大橋修作の息子の透は美咲を好いていて、優を排除すべく阿漕な手段に訴える。

 本作のテーマは、「デイアンドナイト」と同様に地方と都会との絶望的な格差だ。そして過疎地にゴミ処分場を作ろうとする無味乾燥な“資本の理論”、閉鎖的な地域特有の同調圧力など、今も日本のどこかで展開されているであろう暗鬱な状況が描出されている。さらには処分場では産廃物の違法投棄が堂々と行なわれ、そんなことは無かったかのごとくマスコミに対しては“リサイクル社会の先駆者”みたいな触れ込みでアピールする。

 もちろんこの歪な状態が長続きするはずもなく終盤には破局が到来するのだが、観る側にとって何のカタルシスも無い。ただ苦いものが残るだけだ。優の父親がどうして検挙されなかったのかとか、優があえて村に留まっていた理由、修作の身内がなぜか村の外で警察に勤めているといった、作劇面での説明不足は少なくない。しかし、それらが大きな瑕疵とは思えないほどに取り上げられたモチーフは切迫している。

 ただ残念なのは、重要なネタであるはずの村の伝統芸能である神秘的な薪能がストーリー上であまり機能していないことだ。もっと耽美的に突っ込んで欲しかった。それでもシナリオ作成も担当した藤井監督の仕事ぶりはパワフルで、この題材に関する深い思い入れが窺われる。主演の横浜流星は好調。浮き沈みの激しい主人公の境遇をうまく表現している。黒木華に中村獅童、古田新太といった面子も申し分なく、一ノ瀬ワタルに奥平大兼、杉本哲太、西田尚美、木野花らバイプレーヤーも手堅い。川上智之のカメラによる闇深い村の光景や、岩代太郎の音楽も効果的だ。
コメント
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