元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「パリタクシー」

2023-05-08 06:11:50 | 映画の感想(は行)
 (原題:UNE BELLE COURSE/DRIVING MADELEINE)有り体に言えばこれはファンタジーに近い建付けなのだが、採り入れられたモチーフは妙に重苦しいテイストがある。しかもそれが“重さのための重さ”でしかなく、さほど普遍性を伴ってはいない。少なくとも、宣伝文句にあるような“笑って泣いて、意外すぎる感動作”であるとは、個人的には思えなかった。

 パリ在住のタクシー運転手シャルルは、ヤクザな性格が災いして免停寸前に追い込まれていた。そんなある日、彼は90歳代のマドレーヌをパリの反対側にある老人ホームまで送る仕事を請け負う。彼女は当日入居する予定で、その前に街中の思い出の場所を巡りたいのだという。寄り道の連続に最初はウンザリしていたシャルルだが、マドレーヌの意外な過去が明らかになるに及び、いつしか意気投合してしまう。



 この“意外な過去”というのがクセモノで、離婚を皮切りに常軌を逸した事件を引き起こして逮捕され、その一件が“社会的ムーブメント”にまで発展するが、結局彼女は投獄されて辛酸を嘗めるといった具合に、ヘヴィな割に芝居じみている。息子との関係性も、悲劇ではあるのだがTVのメロドラマ並にワザとらしい。こんな話に付き合わされたシャルルこそ良い面の皮だと思うのだが、どういうわけか2人は仲良くなって、いつの間にやら彼の家庭内の問題も解決の方向に進んでいく。

 特に観ていて大いに困惑したのは終盤の処理で、大方の予想通りの幕切れなのだが、そこに至るプロセスがあまりにもいい加減でシラけてしまった。クリスチャン・カリオンの演出は「戦場のアリア」(2005年)同様にピンとこない。シャルルを演じる人気俳優のダニー・ブーンと、超ベテラン歌手でもあるマドレーヌ役のリーヌ・ルノーの存在感に丸投げして、この絵空事みたいなストーリーを追っているだけだ。

 しかしながら、劇中で紹介されるパリの風景は大層素晴らしい。名所旧跡はもちろん、下町の風景も丁寧に描かれている。特に夜の街並みの美しさにはタメ息が出るほどだ。その意味では観光映画としての価値は大いにあるだろう。なお、私は本作を平日の昼間に観たのだが、まさかのシニア層による満員御礼で、ロビーは通勤電車並みの混雑。適度にハートウォーミングっぽく、観光気分も味わえるということで多くの観客を集めたと思うのだが、高年齢層(特に女性)に対するマーケティングの面では注目すべき素材であろう。
コメント
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