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元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「幻滅」

2023-05-26 06:07:03 | 映画の感想(か行)
 (原題:ILLUSIONS PERDUES )フランスの文豪オノレ・ド・バルザックの小説「幻滅 メディア戦記」(私は未読)の映画化だが、当時描かれた主題が現在でもそのまま通用するあたりが面白い。時代劇らしいエクステリアと風格も万全で、鑑賞後の満足度は高いと言える。2022年の第47回セザール賞で作品賞を含む7部門を獲得。第78回ヴェネツィア国際映画祭のコンペティション部門にも出品されている。

 19世紀前半、フランス中部の田舎町に住む青年リュシアンは、詩人として世に出ることを夢見ていた。そんな折、貴族の人妻ルイーズとの不倫が発覚した彼は、彼女と共にパリへ駆け落ちする。まずはルイーズの従姉妹を頼って社交界デビューを目論むが、地方出身で世間知らずの彼は相手にされない。仕方なく臨時雇いの仕事を転々としていたある日、ひょんなことから新聞社に潜り込むことに成功。そこは“社会の木鐸”という建前とは裏腹に、虚飾と打算が支配する世界だった。やがてリュシアンも当初の目的を忘れて、ウケ狙いの扇情的な記事ばかり手掛けるようになる。



 正直言って、自身の才能を過信して暴走する主人公像は大して普遍性は無い。特に今の日本は、多くの若者が野心を抱けるような経済的環境とは程遠いのだ。対してここに描かれたメディアの実相は、ほぼ現代と一緒である。劇中の新聞社のベテラン記者は“オレたちの仕事は、株主を儲けさせることだ!”と嘯くが、この図式は今でもあまり変わっていないだろう。

 マスコミはどうでも良いことは報道するが、本当に大事なことには“報道しない自由”を振りかざす。各ステークホルダーへの忖度が罷り通り、仕事には責任を取らない。本作では裏金を使ってエンタメ方面への“サクラ”を動員するシーンが挿入されるが、まあ現在も似たようなことが行なわれていることも想像に難くない。

 グザビエ・ジャノリの演出は長めの上映時間を退屈させることなくパワフルにドラマを進める。歴史的考証もシッカリしていて、恐怖政治が終焉を迎えたパリの狂騒的な雰囲気は良く出ていた。大道具・小道具、衣装デザインも万全。主演のバンジャマン・ヴォワザンは見かけは良いが野暮ったさも感じさせて、社交界から拒絶されるリュシアンのキャラクターによく合っていた(注:これはホメているのだ ^^;)。セシル・ドゥ・フランスにヴァンサン・ラコスト、グザビエ・ドラン、サロメ・ドゥワルスといった面子も好調。ジェラール・ドパルデューがサスガの貫禄を見せているのも嬉しい。
コメント
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