元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「空に住む」

2023-09-01 06:09:23 | 映画の感想(さ行)
 2020年作品。2022年に世を去った青山真治監督の最終作だが、彼は「サッド ヴァケイション」(2007年)以来調子を落としており、観る前から期待はしていなかった。だが、実際に作品に接すると想像を上回るほどのヴォルテージの低さで、呆れつつ鑑賞を終えた。だが、そもそもこれはEXILE一派の楽曲とセットで売り出した小説の映画化らしく、誰が監督してもあまり変わらないと思われる御膳立てだったのだ。つまりは作品のコンセプトからして間違っているようなシャシンである。

 小さな出版社に勤める小早川直実は、最近両親を事故で亡くした。それを見かねた叔父夫婦の計らいで、彼女は愛猫のハルと一緒にタワーマンションの高層階で暮らし始める。ある日、直実は人気俳優の時戸森則が同じマンションに住んでいることを知る。成り行きで彼と付き合うことになった直実だが、仕事上も一筋縄ではいかない案件を抱えている身としては、落ち着かない毎日を送る。



 まず、なぜヒロインが高級マンションに住まなければならないのか、明確な理由が示されないのは不満だ。いくら叔父夫婦の誘いがあっても、それまで住んでいた場所から移る道理は無い。これでは単に“オシャレなところに住みたかった”という下世話な背景しか浮かび上がってこない。しかも、このマンションはバブル時代を思わせる金満趣味全開の造形で、対して主人公の勤務先は古民家を改造したようなレトロな佇まいと、まさに“遅れてきたトレンディ・ドラマ”のような建付けであり、観ていて気恥ずかしくなってくる。

 優柔不断なヒロインをはじめ、出て来る連中がすべて中身がカラッポだ。特に時戸森則のチャラさは言語道断で、演じているのがくだんの一派に属する岩田剛典。仲間と共に主題歌も担当している関係上、演技指導など最初から必要ないとばかりに大根路線をひた走る。ストーリーはどうでもいい展開を経て、どうでもいい結末に行き着く。

 主演の多部未華子をはじめ、岸井ゆきのに美村里江、鶴見辰吾、大森南朋、永瀬正敏、柄本明といった(岩田を除けば)悪くないキャストを集めているが、機能していない。いくら不調とはいえ、かつては先鋭的な作品をいくつか手掛け高い評価を得ていた青山監督が、この程度の映画でキャリアを終えてしまったのは残念だ。
コメント
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