(原題:THE INSPECTION)これは厳しい映画だ。アメリカのインディペンデント系エンターテインメント企業であるA24が手掛ける作品には変化球を効かせたものが目立つが、本作は撮り方としては正攻法である。しかし、代わりにドラマの焦点になっているモチーフは一筋縄ではいかない。言い換えれば、題材がシャレにならないからこそ奇を衒ったアプローチは禁物だということだろう。この判断は的確だ。
2005年のアメリカはイラク戦争の真っ只中にあった。同性愛者の若者エリス・フレンチは母に見捨てられ、16歳の頃から家を出るハメになり、それ以降10年に渡ってホームレスとして生きてきた。そんな彼が環境を変えるべく、一念発起して海兵隊への入隊を決意する。何とか採用されたエリスだが、例によって鬼軍曹からの熾烈なシゴキが待っていた。加えてゲイであることが周囲に知れ渡り、激しい差別と虐待にさらされる。だが、真摯で前向きな彼の態度は徐々に上官や同僚たちからの信頼を勝ち取っていく。本作が長編デビューとなるエレガンス・ブラットン監督が、自身の経験をもとに書き上げたオリジナル脚本の映画化だ。

前述の“シャレにならない題材”とは何かというと、それはエリスが入隊後に味わう軍隊内の理不尽さではなく、イラクに戦争を仕掛けた当時のアメリカの独善ぶりでもない。ズバリ言うと、主人公と母イネスとの関係性だ。開巻間もなく、エリスが入隊に必要な出生証明書をもらうため久しぶりに自宅に戻るシーンがあるが、ここでの母親の冷淡な態度は尋常ではない。主人公が家を追い出されたのは、同性愛者を蛇蝎の如く嫌うイネスの存在ゆえであった。
エリスは決して素行に問題がある息子ではなく、それどころかホームレス仲間からは慕われている。人望があるからこそ、海兵隊に入っても何とかやっていけたのだ。しかし、いくら相手が根はいい奴でもゲイというだけで毛嫌いする連中は存在する。ましてや子供の性格を把握しているはずの親でも、本質から目をそらして同性愛者という“外観”だけに拘泥してしまう。
そしてイネスは愚かにも、軍隊は息子の性的嗜好さえも叩き直してくれると思い込んでいたのだ。この差別と偏見の実相を、ブラットン監督は鮮明に描こうとする。これはたとえば「愛と青春の旅立ち」(82年)のような“落ちこぼれの主人公が軍隊に入って自己を確立する”という、ある意味幸せな話ではない。本来はマトモな人生を送れたはずの主人公が周囲の無理解によって阻害され、残された道は従軍しかなかったというシビアな状況を浮き彫りにしている。
歌手としても活動しているという主演のジェレミー・ポープは好調で、本作でゴールデングローブ賞の主演男優賞候補になっている。イネス役のガブリエル・ユニオンをはじめ、ラウル・カスティーロ、マコール・ロンバルディ、アーロン・ドミンゲス、イーマン・エスファンディら他の面子も良い仕事をしている。
2005年のアメリカはイラク戦争の真っ只中にあった。同性愛者の若者エリス・フレンチは母に見捨てられ、16歳の頃から家を出るハメになり、それ以降10年に渡ってホームレスとして生きてきた。そんな彼が環境を変えるべく、一念発起して海兵隊への入隊を決意する。何とか採用されたエリスだが、例によって鬼軍曹からの熾烈なシゴキが待っていた。加えてゲイであることが周囲に知れ渡り、激しい差別と虐待にさらされる。だが、真摯で前向きな彼の態度は徐々に上官や同僚たちからの信頼を勝ち取っていく。本作が長編デビューとなるエレガンス・ブラットン監督が、自身の経験をもとに書き上げたオリジナル脚本の映画化だ。

前述の“シャレにならない題材”とは何かというと、それはエリスが入隊後に味わう軍隊内の理不尽さではなく、イラクに戦争を仕掛けた当時のアメリカの独善ぶりでもない。ズバリ言うと、主人公と母イネスとの関係性だ。開巻間もなく、エリスが入隊に必要な出生証明書をもらうため久しぶりに自宅に戻るシーンがあるが、ここでの母親の冷淡な態度は尋常ではない。主人公が家を追い出されたのは、同性愛者を蛇蝎の如く嫌うイネスの存在ゆえであった。
エリスは決して素行に問題がある息子ではなく、それどころかホームレス仲間からは慕われている。人望があるからこそ、海兵隊に入っても何とかやっていけたのだ。しかし、いくら相手が根はいい奴でもゲイというだけで毛嫌いする連中は存在する。ましてや子供の性格を把握しているはずの親でも、本質から目をそらして同性愛者という“外観”だけに拘泥してしまう。
そしてイネスは愚かにも、軍隊は息子の性的嗜好さえも叩き直してくれると思い込んでいたのだ。この差別と偏見の実相を、ブラットン監督は鮮明に描こうとする。これはたとえば「愛と青春の旅立ち」(82年)のような“落ちこぼれの主人公が軍隊に入って自己を確立する”という、ある意味幸せな話ではない。本来はマトモな人生を送れたはずの主人公が周囲の無理解によって阻害され、残された道は従軍しかなかったというシビアな状況を浮き彫りにしている。
歌手としても活動しているという主演のジェレミー・ポープは好調で、本作でゴールデングローブ賞の主演男優賞候補になっている。イネス役のガブリエル・ユニオンをはじめ、ラウル・カスティーロ、マコール・ロンバルディ、アーロン・ドミンゲス、イーマン・エスファンディら他の面子も良い仕事をしている。