(原題:CRIMES OF THE FUTURE )さすがデイヴィッド・クローネンバーグ監督。80歳になってもその“変態ぶり”は衰えを見せず、今回も目を剥くような異世界を現出させている。近年は彼の息子ブランドンが監督デビューしているものの、まだまだ父親の跡を継ぐまでには至っていない関係上、デイヴィッド御大には引き続き頑張ってほしいものだ。
人工的な環境に適応するため生物学的に人類が“進化”を遂げた近未来。その結果として誰しも“痛み”を感じなくなった世界で、密かに好事家たちの人気を集めていたのが、体内で新たな臓器が次々と生み出されるという特異体質の男ソール・テンサーと、そのパートナーであるカプリースによる“臓器摘出ショー”であった。
だが、文字通り“人工的な”臓器が市場に出回ることを快く思わない政府は、臓器登録所なるものを設立してソールを監視するようになる。ある日彼の元に、生前プラスチックを食べていたという子供の遺体が持ち込まれる。関係者はそれをショーの“目玉”として解剖の対象にして欲しいらしい。クローネンバーグ自身によるオリジナル脚本の映画化だ。
出てくる連中はどれもクセが強すぎて感情移入はできない。ストーリーも無手勝流で、分かる者には分かるかもしれないが、一般ピープルはドン引きだろう。事実、2022年の第75回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門で公開された際は、退出者が続出したという。しかし、彼の映画に耐性(順応性)を持つ観客にとっては、作品の持つ雰囲気と特異な意匠を味わうだけで満足できる。
舞台が未来という割にはスクリーンに映し出されるのはどこかの地方都市の裏通りばかり。まさに場末感が横溢している。ハイライトである臓器摘出場面のエグさは流石で、終盤にはそれに輪をかけたようなグロい仕掛けまである。ソールの身体をフォローするライフフォームと呼ばれるマシンの造形は“信頼のクローネンバーグ印”ともいえる奇態なもので、そのメンテナンス係の女子二人組も立派な変態だ。
しかし、カプリースに扮するのがレア・セドゥで、臓器登録所のエージェントのティムリンを演じているのがクリステン・スチュワートという、私があまり好きではない女優がキャスティングされているのは個人的にはマイナス(笑)。もっと魅力的な面子を持ってきてくれれば、評価が上がったところだ。それでも主役のヴィゴ・モーテンセンは好調で、肉体崩壊に突き進む異形のキャラクターを演じきっていた。音楽はクローネンバーグ作品の常連であるハワード・ショアで、今回も達者なスコアを提供している。