元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「若き見知らぬ者たち」

2024-11-10 06:21:17 | 映画の感想(わ行)
 快作「佐々木、イン、マイマイン」(2020年)の内山拓也監督の新作ということで期待したが、とても評価出来る内容ではなく、落胆した。脚本も内山が手掛けているが、プロデュース側はこの万全とは言えない筋書きを修正するようにアドバイスしなかったのだろうか。とにかく、斯様な不完全な建て付けで製作にゴーサインが出たこと自体、釈然としない。

 今は亡き父の借金を返済するため昼は工事現場で汗を流し、夜はカラオケバーを切り盛りする風間彩人は、完全に生活に疲れていた。さらに同居している母の麻美はメンタルを病んでいて、気が休まる暇も無い。それでも恋人の日向の献身的な振る舞いと、総合格闘技の選手である弟の壮平の活躍に、何とか希望を見出そうとしていた。しかし、親友の大和の結婚を祝う会が開かれた夜に、彩人は理不尽な暴力事件に巻き込まれてしまう。



 冒頭に彩人の窮状が描き出され、その事情が映画が進むに従って小出しに明らかにされるという構成は、失当と言うしかない。これでは感情移入できる余地がないばかりか、真相が示されないまま主人公が悩んでいるだけという状態が長く続くため、観ていてストレスがたまる。

 くだんのカラオケバーは両親が開業したもので、父親はその前は警察官だったというモチーフは序盤に提示すべきだし、父親が死亡した原因や母親が正気を失った背景も、前半部分には挿入すべきだ。そもそも、どうして前後不覚な母親を家に置いておくのか分からない。第一、日向は看護師じゃないか。適切な改善策ぐらい提案出来ないのか。

 仲が良いはずの大和たちも、具体的に彩人に手を貸している様子は見受けられない。彩人が災難に遭うプロセスは牽強附会の最たるものだし、事件を担当した警官の態度も不審過ぎる。かと思えば、壮平の試合の場面が不必要に長く、しかも大して盛り上がらない。要するにこの映画、不幸のための不幸、悲劇のための悲劇を並べ立てているだけで、何ら普遍性もドラマティックさも喚起されていないのだ。

 それでもキャストは皆好演。主演の磯村勇斗は逆境に翻弄されて人生を投げてしまった若者像をうまく表現していたし、日向役の岸井ゆきの、壮平に扮した福山翔大、両親を演じた豊原功補と霧島れいかも健闘している。染谷将太や滝藤賢一といった脇の面子も良い。それだけに、この中身の薄さは残念だ。
コメント
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