(原題:FABBRICANTE DI LACRIME)2024年4月よりNetflixから配信されたイタリア製の学園恋愛もの。設定がいかにも“古典的”で最初は面食らったが、屹立するキャラクターとキャストの頑張りで何とか付き合うことが出来、終わり近くにはけっこう盛り上がる。結果として観てそんなに損はしないシャシンかと思った。
児童養護施設で辛い幼少期を過ごした女の子ニカは、十代後半になりミリガン家の養子として引き取られることになる。ところがこの施設で育った男子リゲルもミリガン夫妻は気に入ってしまい、一緒に迎え入れる。同年齢のリゲルとニカは同じ高校に通うことになるが、互いに抱えているトラウマのために家でも学校でも気まずい思いをするばかり。そんな中、ニカに思いを寄せる同級生のライオネルが引き起こしたトラブルが、リゲルを巻き込んで大きな騒動に発展する。エリン・ドゥームによるヤングアダルト小説の映画化だ。
鬼のような院長が支配する孤児院で辛酸を嘗める主人公たちという、大時代な設定にはまず苦笑してしてまう。さらにいくらミリガン家に余裕があるといっても、2人同時に、しかも色気付いた(笑)年頃の男女を養子にするという筋書きは相当無理がある。通う高校は明らかに中流以上の家庭の子女を対象にした佇まいで、この学校の選択は養父母の意向なのは明らかだが、2人ともそこの生徒にしてしまうというのは考えものだ。せめて別々のところに通学するように配慮すべきではなかったか。また、リゲルとニカの周囲の生徒たちの造型も図式的で感心しない。
だが、話が児童施設の虐待を告発する裁判劇の様相を呈する終盤は、興趣が俄然増してくる。主人公2人の言動の背景にあるものは、幼少時の体験にあることが強調され、けっこうドラマは深みを帯びてくるのだ。これが事故が元で生死の境をさまようことになるリゲルの容体と同時進行し、観ていて少し引き込まれるものがあった。
リゲルを演じるシモーネ・バルダッセローニは二枚目ではあるものの、ミステリアスで悪魔的な風貌が強い印象を与える。ニカに扮するカテリーナ・フェリオリはかなりの美少女だが、性根が据わっていて大胆な演技も厭わないのには感心する。孤児院の院長役のサブリナ・パラビチーニも実に憎々しい。
アレッサンドロ・ベデッティにロベルタ・ロベッリ、オルランド・チンクェ、ジュジュ・ディ・ドメニコなど他のキャストは馴染みは無いが、皆良い演技をしている。アレッサンドロ・ジェノベージの演出には特段才気は感じられないが、及第点だろう。ルカ・エスポジートのカメラによるロケ地のイタリア北部ラベンナの美しい風景と、音楽担当のアンドレア・ファッリが提供する流麗なスコアも効果的だ。