(原題:THE LAST DUEL )2時間半を超える尺だが、最後まで飽きさせない。構成が巧みでドラマ運びに重量感がある。キャストのパフォーマンスや映像は申し分ない。そして何より“決闘”の当事者たちが百戦錬磨の騎士であるにも関わらず、見事な“女性映画”になっている点が大いに評価出来る。見応えのある歴史劇だ。
百年戦争の勃発から半世紀ほど経った1386年のフランス。勇猛果敢な騎士として定評のあるジャン・ド・カルージュの遠征中に、彼の旧友ジャック・ル・グリが屋敷に押し入り、ジャンの妻マルグリットに乱暴をはたらくという事件が発生。彼女は領主に訴えるが、目撃者がおらずジャックの有罪は問えない。この法廷での膠着状態を打破するため、国王シャルル6世は当時すでに禁止されていた“決闘裁判”を持ちかける。ジャンが勝てばジャックの罪状は確定。ジャックが勝てばマルグリットは偽証の罪で死刑になる。エリック・ジェイガーのノンフィクション「決闘裁判 世界を変えた法廷スキャンダル」を元に作られている。
映画は4つのパートに分かれている。事件をジャン側から見たもの、ジャックの側から見たもの、マルグリットの主観によるもの、そして決闘のシークエンスだ。いわば“「羅生門」方式”なのだが、あの有名な黒澤明作品と決定的に異なるのは、誰かが嘘をついているわけではなく、真実は最初から明らかであるという点である。
本作で描き分けているのは各当事者の事件に対する“立場”にすぎない。しかし、その“立場”こそが問題なのだ。男2人は事件の重大さに対して言及はするものの、結局はそれぞれが置かれた社会的ポジションからしかコメント出来ない。ところがマルグリットは断じて違う。彼女は辱めを受けたこと自体を訴えているのだ。
それは社会的立場がどうのとか、世間体が何だとか、そんなことは関係ない。それを象徴するのが、ジャンの母親に対するマルグリットの態度だ。義母も若い頃には、さんざん性的被害に遭ってきたという。しかし立場上“泣き寝入り”をしてきたし、それが当然だと思い込んでいる。ところがマルグリットは彼女の言葉に動じない。自らの誇りを失わないために、命を賭して決然と立ち上がる。そしてジャンもそれを受け入れる。この展開はまさに“現代”に通じるものがあり、今映画化するにふさわしい。
リドリー・スコットの演出は久々にパワフルなタッチを見せ、ドラマ運びに淀みがなく、クライマックスの決闘場面の盛り上がりは素晴らしい。マット・デイモンとアダム・ドライバーの演技は申し分ないが、やっぱり強い印象を与えるのはマルグリット役のジョディ・カマーだ。演技力も気品もあるこの英国の若手女優の将来は明るい。
また、ベン・アフレックが一見彼だとは分からない役柄で出ているのも面白い。ダリウス・ウォルスキーのカメラによる寒色系の映像と、確かな時代考証に裏打ちされた美術は、作品のクォリティを上げている。ハリー・グレッグソン=ウィリアムズの音楽も及第点だ。