元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「レッド・ロケット」

2023-05-13 06:07:58 | 映画の感想(ら行)
 (原題:RED ROCKET)ショーン・ベイカー監督の前作「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」(2017年)よりも質的に落ちる。もっとも「フロリダ~」は全編の大半が盛り上がりに欠ける展開だったのだが、怒濤の終盤にはそれまで凡庸だった作品自体の価値を押し上げるインパクトがあった。対して本作にはそのような仕掛けは無く、平板な画面が延々と続くだけだ。

 2016年、冴えない中年男マイキー・セイバーが故郷テキサス州の田舎町に帰ってくる。彼は元ポルノ男優で、かつて“業界のアカデミー賞に5回もノミネートされた(でも受賞は逃した)”と言われるほどの売れっ子だったらしい。しかし今は落ちぶれて、ほぼ一文無し。それでも別居中の妻レクシーと義母リルが住む家に転がり込むことに成功する。



 しかし、すぐにここから巻き返せるという根拠の無い楽観論とは裏腹に、彼がありつけるカタギの仕事など存在しない。仕方なく昔の知り合いを頼って、マリファナの売人をやりながら細々と暮らす毎日だ。あるとき、彼はドーナツ店でアルバイトの女子高生ストロベリーを一目見て“ポルノ女優として大成する可能性がある”と直感。早速彼女を口説いて家出をそそのかす。

 マイキーはストロベリーに“オレは遣り手の芸能関係者だ!”みたいなことを告げるのだが、いくら田舎でも、自分の車も持っていない小汚いオッサンが芸能界の顔役に成りすませるわけがない。彼はストロベリーに会うたびに、町内の金持ちの家の前で別れて金満家を装うのだが、こういう下手な小細工に引っ掛かる者なんていないだろう。

 ショーン・ベイカーの演出は冗長極まりなく、だらしない主人公を単にだらしなく撮っただけで、何の興趣も醸し出さない。もちろん、ダメな奴ばかり出てくる映画でも作り手の高い意識があれば面白く仕上がるのだが、本作にはそんな積極性は感じられない。これではイケナイと思ったのか、「フロリダ~」同様に終盤にはドタバタ騒ぎを挿入して盛り上げようとしているようだ。しかし、今回はそれが無理筋で完全に不発。それまでの経緯を放り投げたような失態しか見せられていない。

 そもそもこのネタは工夫もなく2時間10分も引っ張れるようなシロモノではないだろう。テキサス州という土地柄を活かしたような作劇も(茫洋とした風景を除けば)見当たらない。主演のサイモン・レックスは実際に過去にポルノ出演経験があるらしく、その“業界”に関して詳しいところも披露するのだが(苦笑)、如何せん愛嬌が無い。

 ブリー・エルロッドにブレンダ・ダイス、スザンナ・サンといった他のキャストも魅力に乏しい。なおこの映画はインディペンデント・スピリット・アワードをはじめとする映画賞をいくつか獲得し、第74回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門にも出品されているのだが、賞を貰った映画が必ずしも面白いとは限らないことを、今回も実感してしまった。
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ミュシャ展に行ってきた。

2023-05-12 06:07:51 | その他
 4月8日から福岡市中央区大濠公園の福岡市美術館で開催されているミュシャ展に行ってきた。アール・ヌーヴォーの代表的な画家として知られるアルフォンス・ミュシャの作品を集めたもので、チェコ在住でミュシャ本人とも交流があったズデニェク・チマル博士のコレクションが主に展示されていた。



 ミュシャの展覧会は過去に開催された際も足を運んだことがあるが、作品や作風自体に関してはここで素人の私があえてコメントする必要は無いだろう。ただ今回の美術展で面白いと思ったのは、すべての展示物が写真撮影可能であったことだ(ただし、フラッシュ使用や動画撮影は不可)。普通、美術展というものは作者あるいは作品の保有者による権利が厳格に定められており、入場者が勝手に写真を撮ることはNGであるはずだが、このミュシャ展に限ってどういう経緯で撮影可の運びになったのかは分からない。

 とはいえ、SNSが普及した昨今では、この施策は“インスタ映え”などを優先的に考える入場者を集めたことは間違いないようで、実際写真を撮りまくっている観覧者が目立った。今後も(権利問題さえクリア出来れば)このような趣向の美術展も増えるのかもしれない。
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「パリタクシー」

2023-05-08 06:11:50 | 映画の感想(は行)
 (原題:UNE BELLE COURSE/DRIVING MADELEINE)有り体に言えばこれはファンタジーに近い建付けなのだが、採り入れられたモチーフは妙に重苦しいテイストがある。しかもそれが“重さのための重さ”でしかなく、さほど普遍性を伴ってはいない。少なくとも、宣伝文句にあるような“笑って泣いて、意外すぎる感動作”であるとは、個人的には思えなかった。

 パリ在住のタクシー運転手シャルルは、ヤクザな性格が災いして免停寸前に追い込まれていた。そんなある日、彼は90歳代のマドレーヌをパリの反対側にある老人ホームまで送る仕事を請け負う。彼女は当日入居する予定で、その前に街中の思い出の場所を巡りたいのだという。寄り道の連続に最初はウンザリしていたシャルルだが、マドレーヌの意外な過去が明らかになるに及び、いつしか意気投合してしまう。



 この“意外な過去”というのがクセモノで、離婚を皮切りに常軌を逸した事件を引き起こして逮捕され、その一件が“社会的ムーブメント”にまで発展するが、結局彼女は投獄されて辛酸を嘗めるといった具合に、ヘヴィな割に芝居じみている。息子との関係性も、悲劇ではあるのだがTVのメロドラマ並にワザとらしい。こんな話に付き合わされたシャルルこそ良い面の皮だと思うのだが、どういうわけか2人は仲良くなって、いつの間にやら彼の家庭内の問題も解決の方向に進んでいく。

 特に観ていて大いに困惑したのは終盤の処理で、大方の予想通りの幕切れなのだが、そこに至るプロセスがあまりにもいい加減でシラけてしまった。クリスチャン・カリオンの演出は「戦場のアリア」(2005年)同様にピンとこない。シャルルを演じる人気俳優のダニー・ブーンと、超ベテラン歌手でもあるマドレーヌ役のリーヌ・ルノーの存在感に丸投げして、この絵空事みたいなストーリーを追っているだけだ。

 しかしながら、劇中で紹介されるパリの風景は大層素晴らしい。名所旧跡はもちろん、下町の風景も丁寧に描かれている。特に夜の街並みの美しさにはタメ息が出るほどだ。その意味では観光映画としての価値は大いにあるだろう。なお、私は本作を平日の昼間に観たのだが、まさかのシニア層による満員御礼で、ロビーは通勤電車並みの混雑。適度にハートウォーミングっぽく、観光気分も味わえるということで多くの観客を集めたと思うのだが、高年齢層(特に女性)に対するマーケティングの面では注目すべき素材であろう。
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「映画大好きポンポさん」

2023-05-07 06:05:08 | 映画の感想(あ行)
 2021年作品。いかにも若年層向けお手軽作品みたいな雰囲気とキャラクターデザインで、通常なら敬遠したくなるタイプのシャシンなのだが、映画作りを題材にしているということで敢えて観てみた。結果、驚いた。これはなかなかの快作だ。何より、送り手が映画製作の基本を的確に押さえている点が素晴らしい。特に、映画業界に少しでも興味のある向きは必見の作品かと思う。

 映画の都“ニャリウッド”で腕を振るう若手女性プロデューサーのジョエル・ダヴィドヴィッチ・ポンポネット(通称:ポンポ)は、主にB級作品で実績を残しているが、実は大物映画製作者の孫でその才能を受け継いでいた。彼女にアシスタントとして雇われている青年ジーン・フィニは、いつか映画を撮ることを夢見ているが自信が無く、何事も消極的だ。そんな彼にポンポから新作の15秒CM製作のオファーが来る。



 意外にもそのCMの仕事に手応えを感じたジーンに、今度は伝説の俳優マーティン・ブラドックの復帰作の演出という、ビッグチャンスが舞い込む。彼はオーディションで選ばれた新人女優のナタリー・ウッドワードらと共に、一筋縄ではいかない撮影作業に臨む。杉谷庄吾による同名コミックを元にしたアニメーションだ。

 とにかく、物事がロジカルに進むのが観ていて気持ちが良い。もちろん、ジーンが元々大きな潜在能力を持っていたとか、ポンポが非凡な“政治力”を最初から持ち合わせていたとかいう御都合主義的な設定は見受けられるのだが、それらを単なる“約束事”として片付けられるだけの求心力が作劇にはある。なぜポンポは気弱に見えるジーンを雇い入れ、そして大きな仕事を任せたのか。どうしてナタリーは採用されたのか。製作陣は撮影時に発生したトラブルをどのように乗り切るのか。このような展開に伴う必然性を決して疎かにしない。

 ストーリー面で感心したのは、映画作りにおける編集作業の重要性をクローズアップさせていることだ。どのシークエンスが無駄か、あるいは無駄ではないのか。それを見極めるためにジーンは悩む抜く。その様子が明示されていることによって、逆に“足りないシークエンス”があることを認識するという筋書きには唸ってしまった。平尾隆之の演出はそのあたりを強調するかのように、編集プロセスを映像的ケレンを駆使して描いている。

 “映画の中に作り手はいるのか”などの含蓄のあるセリフも印象的。また、ジーンの学生時代の同級生で今は大手銀行に勤めるアランというキャラクターの存在は出色で、この銀行がポンポたちの仕事に出資するかどうかのサブ・プロットも光る。登場人物たちの努力が反映される終盤の処理も含めて、鑑賞後の感触は上々だ。初めて声の出演を務めた清水尋也と大谷凜香、そして小原好美に加隈亜衣、大塚明夫、木島隆一などの手練れの声優陣の仕事ぶりも万全である。
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「聖地には蜘蛛が巣を張る」

2023-05-06 06:05:56 | 映画の感想(さ行)
 (原題:HOLY SPIDER )胸くそ悪い映画である。断っておくが、決してこれはケナしているわけではない。昨今は“胸糞”というフレーズをホメ言葉として扱うケースが珍しくないらしいが(苦笑)、本作はまさにそれだ。もちろん一般的な良い映画という意味ではなく、マイナス方向のインパクトが強く忘れがたい印象を残すシャシンとして評価出来る。

 イランの聖地マシュハドで2000年代初めに連続殺人事件が発生。犠牲者はすべて娼婦で、“スパイダー・キラー”と名乗る犯人は“街を浄化するため汚れた女たちを始末しているのだ”と嘯く。女性ジャーナリストのラヒミは真相を探るべくマシュハドに乗り込むが、犯人を英雄視する市民が少なくないことを知り愕然とする。しかも事件を握り潰そうとする勢力も存在し、警察当局も例外ではない。意を決したラヒミは、自身が囮になって犯人をおびき寄せるという、危険な賭に出る。実際に起こった事件を元にしたクライムサスペンスだ。



 映画は早々に犯人の氏素性を明らかにするが、それが作劇上の欠点にはなっていない。この犯人像こそが映画の最大のポイントだ。容疑者サイードは妻子のいる一見普通の家庭人だが、かつてイラン・イラク戦争に従軍し、多くの戦友の死に直面してきた。そのため“自分だけが生き残ってしまった”という負い目から逃れられない。このコンプレックスを克服する手段が“聖地である街の浄化”を名目にした凶行だったのだ。さらにサイードがやらかしたことを知った妻も、夫を批判するどころか正当な行為だったと強弁する始末。

 アリ・アッバシの演出は粘り着くようなタッチで事件の顛末を追う。正直言ってサスペンスの練り上げ方はそれほど巧みではない。しかし、犯行場面の描写はかなり生々しく、観る側の内面をざわつかせるには十分だ。そして、災難に遭う娼婦たちの生活感も掬い上げられている。極めつけはラストの処理で、(良い意味での)後味の悪さは格別だ。

 主役のザーラ・アミール・エブラヒミは大熱演で、世の中の無知と偏見に果敢に立ち向かうマスコミ人をリアルに表現。本作で第75回カンヌ国際映画祭で女優賞を獲得している。サイードに扮するメフディ・バジェスタニも見事なサイコパス演技だ。なお、当然のことながらこの内容ではイランでは撮影・製作不可である。本作はデンマークとドイツ、スウェーデン、フランスの合作。ロケ地はヨルダンである。
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久しぶりにサッカーの試合を観戦した。

2023-05-05 06:05:37 | その他
去る5月3日に、福岡市博多区の東平尾公園内にある博多の森球技場(ベスト電器スタジアム)にて、サッカーの試合を観戦した。対戦カードはホームのアビスパ福岡とFC東京である。連休中でもあり客の入りは好調で、入場者数は1万人を超えた。

 Jリーグのゲームを観るのは、何と5年ぶりだ。前回から“個人的な事情”やらコロナ禍やらが続けざまに起こり、スポーツ観戦とは縁の無い日々を送っていたのだが、コロナも(一応は)落ち着きを見せたこともあり、先月のドームでの野球観戦に続いて最近やっと競技場に足を運ぶ気になった次第だ。



 しばらくアビスパの試合を観ていないうちに、いつの間にかJ1に昇格しており、しかもこの時点で一桁の順位に付けている。また、知らない間にオフィシャルチアリーダーズも結成されていて、試合の盛り上げに一役買っている。昔は下位が指定席みたいなチームだったが、いろいろと改善の手立てを講じているようだ。

 試合展開はキックオフから一進一退で両チームとも力は互角かと思わせたが、アビスパの方がディフェンスに勝り、危なげなシーンが少なかった。双方無得点のまま前半を終えるが、後半に入るとジリジリとアビスパが押し気味になり、後半27分にフォワードの山岸祐也が相手ゴールのネットを揺らし、これが決勝点になった。結果5位に浮上ということで、今後も活躍を望みたい。



 余談だが、フード類を売るショップが現金を扱わないことを知り、いささか面食らった。何でもこれは2022年のシーズンから決まった話らしい(とはいえ、スタジアム外の屋台形式の店ではどうなのかは分からない)。いずれにしろセキュリティ上ではキャッシュレスは望ましいとは思うが、現金払いがデフォルトの年配層(笑)にはどう映るのか気になるところである。
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「AIR エア」

2023-05-01 06:09:55 | 映画の感想(英数)
 (原題:AIR )例えて言えば、よくある池井戸潤や真山仁のビジネス小説の映画化・ドラマ化作品をグレードアップしたような案配で、鑑賞後の満足度は高い。特に企業人ならば共感するところが大きいのではないだろうか。しかも実話を元にしているこの題材は誰でも興味を持てるもので、企画段階で半ば成功は約束されたと言って良い。

 1984年、スポーツ用品メーカーの大手ナイキは手薄のバスケットボール部門の強化を狙っていた。社長のフィル・ナイトは営業推進部門のスタッフで盟友でもあるソニー・ヴァッカロにこのプロジェクトを任せる。だが、当時のバスケットボール用品の市場はコンバースとアディダスの寡占状態。この劣勢を跳ね返すには、他社が手を付けていないイメージキャラクターになる新進気鋭のプレーヤーと、非凡なマーケティングが必要である。そこでソニーが目を付けたのが、まだプロデビューもしていない新人選手マイケル・ジョーダンだった。



 たとえポーツに疎い者でもその名は知っているであろう伝説のバスケットシューズ“エア・ジョーダン”誕生のプロセスを描いたシャシンだが、物事が(余計な色恋沙汰などを挿入せずに)文字通りビジネスライクに進むのが観ていて気持ち良い。M・ジョーダンがなぜ当初ナイキを嫌っていたのか分からないが、ほぼコンバースに決まりかけていた彼のライセンス契約を、口八丁手八丁と着実な理詰めのネゴシエーションで徐々にこちらに引き寄せる様子が平易に描かれている。

 さらに、雌雄を決したナイキとの契約の特徴がそれまでに類を見ない画期的なものであった点も強調される。その提案をするのはマイケルの母親デロリスであったことも痛快だ。考えてみれば選手本位のこの契約こそが正当であり、それまでの形態は企業の利益のみが優遇されていたことに驚かされる。

 フィル役で出演もしているベン・アフレックの監督ぶりは適度なケレンを織り交ぜつつも、堅実でドラマが破綻することがない。ソニーに扮するマット・デイモンは絶好調で、スポーツメーカーに勤めていながら運動不足は如何ともしがたいという(笑)、トボけたキャラクターを楽しそうに演じている。商品開発担当のストラッサー役のジェイソン・ベイトマン、デロリスに扮するヴィオラ・デイヴィスの存在感もさすがだ。

 そして特筆すべきは、バックに流れる当時のヒット曲の数々である。80年代のポップスは大して好きではないが、それでも懐かしさは感じるし何より映画の時代設定を補完する意味では適切だ。それにしても、バスケットボール・シューズには色合いなどに厳格な“規定”があったことを、本作で初めて知った。そのあたりを覆した“エア・ジョーダン”の価値はそれだけ高いということだろう。プレミアム的な価値を生み出したのも納得できる。
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