元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ヒットマン」

2024-10-12 06:25:01 | 映画の感想(は行)
 (原題:HIT MAN )まるで面白くない。題材こそ興味深いが、映画としてはそれを全然活かしきっていない。筋書きは要領を得ないばかりか、テンポも悪い。ならば各キャラクターが屹立しているのかというと、感情移入出来る登場人物が皆無というのだからやり切れない。ただし困ったことに、評論家筋ではウケが良いらしい。映画の好みというのは個人それぞれだというのは承知しているが、これほど他者の評価と接点が見出せないシャシンというのも珍しい。

 ニューオーリンズに住む大学教授のゲイリー・ジョンソンは、心理学と哲学を学生に教える一方、周囲には内緒で地元警察に技術スタッフとして協力していた。あるとき、おとり捜査のベテランであるジャスパー刑事が不祥事で突然職務停止になり、代わりにゲイリーが殺し屋に扮することになる。



 慣れない仕事に当初は戸惑っていた彼だが、結果は成功。これに味をしめたゲイリーは、それから各ターゲットに応じて“役柄”に徹することを楽しむようになる。ところが夫の殺害を依頼してきたマディソン・マスターズに殺し屋として接した彼は、思いがけず彼女に惚れてしまう。仕事の範囲を超えてマディソンと付き合うようになったゲイリーだったが、何と後日、マディソンの夫が何者かに殺害されるという事件が起きる。

 主人公の造型と彼が請け負う仕事の内容は、確かに面白い。ある程度実話を元にしたネタということだから、アメリカではこのような“職業”が実在するのだろう。しかし、その料理の仕方がなっていない。

 ゲイリーが変装や何やらで入念に“仕事”に対する準備を進め、それで任務を全うするというパターンは2,3回やる分には面白いのだろうが、この映画は延々とリフレインする。しかも、毎回段取りと撮り方はほぼ一緒で、画面は徐々に弛緩するばかり。マディソンと出会うあたりでようやくドラマは動いてくるのだが、それから先もまたテンポが悪く緊張感のカケラも無いのだ。終盤の展開とラストの処理に至っては、観る者をバカにしているんじゃないかと思うほど工夫もカタルシスも不在である。

 リチャード・リンクレイター監督の仕事ぶりは2014年に撮った「6才のボクが、大人になるまで。」と同様、メリハリが不足。主演のグレン・パウエルは凡庸に見えるし、マディソンのアドリア・アルホナも魅力が出ていない。オースティン・アメリオやサンジャイ・ラオ、グラレン・ブライアント・バンクスといったキャストにも特筆できるものは見当たらない。
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「マイ・ライフ」

2024-10-11 06:26:57 | 映画の感想(ま行)
 (原題:SEE HOW SHE RUNS)78年作品。同じ邦題のアメリカ映画(93年)があるが、あれとは別物だ。マサチューセッツ州で離婚して娘2人と暮らしていた中年女性ベティ・クインが、何かのきっかけでマラソンを始め、やがてボストンマラソン大会に参加する。そして、こじれていた周りとの人間関係も、彼女のこの素晴らしいマラソン大会での走りっぷりをもってすべて丸く収まるという話。

 この時期のアメリカ映画は、落ちこぼれとか反体制に対するシンパ的な態度からスタンスを変え始め、日々努力する者こそ救われるというヒューマニズム映画が主流になっていたようだ(「ロッキー」あたりがその嚆矢だろうか)。本作もそのカテゴリーに入る映画で、ここでは離婚して苦労している女性でも、何か努力する目標さえあれば必ず良いことがある、必ず救われるのだというヒューマンな思想に貫かれている。やはりこの手のシャシンは多少のウソがあっても心地よく観られる。



 主人公が当初ダイエット目的でジョギングを始めたのは分かるが、それがどうしてフルマラソンにまで挑戦したくなったのか、そのへんの理由がハッキリ描かれていない不満もあるが、そこは“雰囲気”あるいは“その場のノリ”で見せきっている。主演はジョアン・ウッドワードで、当時すでに40歳を超えていたのだが容姿は若々しくて美しい。ポール・ニューマンが惚れたのも無理はないだろう(笑)。彼女の頑張りは相当のもので、クライマックスのマラソン大会の場面も十分感動的だ。

 しかし、私は主人公よりも、ヒロインの年老いた父の方にとても興味を持った。もうトシを取って歩けないので、車椅子に乗って絵ばかりを描いている。ところがこれが何とただの趣味ではなく、彼の描く絵は“テレビの絵”なのだ。毎日テレビを見るしかやることが無く、過去も現在もテレビしかない。老いの残酷さがダイレクトに伝わってきて慄然とする思いである。

 リチャード・T・ヘフロンの演出は達者で、最後までドラマを弛緩させずに進めている。リシー・ニューマンにメアリー・ベス・マニング、ジョン・コンシダイン、バーナード・ヒューズといった共演者も申し分なく、ロン・ロートアのカメラによる明るい映像も印象的だ。
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「侍タイムスリッパー」

2024-10-07 06:26:01 | 映画の感想(さ行)
 楽しめた。早くも“第二の「カメラを止めるな!」”という声もあるようだが、確かに卓越した着想と映画のバックステージものを絡めた建て付けは「カメラを止めるな!」(2017年)と共通している。また、当初は小規模での封切りが口コミによって拡大公開になったプロセスも似たようなものだ。そして何より、作者の映画に対する愛情が存分に感じられる点は同じであり、こういうシャシンが広範囲な支持を集めるのだろう。

 幕末の京都。長州藩士を討つよう密命を受けた会津藩士の高坂新左衛門は、ターゲットになる男と相まみえた際に落雷によって気を失ってしまう。彼が我に返ると、そこは現代の時代劇の京都撮影所だった。ロケに飛び入りして刀を抜いてしまった彼は、監督らスタッフに追い出される。やがて新左衛門は、江戸幕府が140年前に滅んだことを知る。



 生きる目的を失いそうになった彼だったが、助監督の山本優子らに助けられ、この時代で暮らしていくことを決心。そして剣の腕を活かし彼は“斬られ役”として採用される。そんなある日、往年の時代劇スターの風見恭一郎から新左衛門は映画の相手役に指名される。

 タイムスリップ物としての興趣は(ある一点を除けば)大したことは無い。主人公が遭遇する時代のギャップを強調するモチーフは希薄だし、そもそも実体験で命のやり取りを経験した新左衛門が、撮影用の殺陣を“芝居だ”と見破れないはずが無い。だが、そんな瑕疵があっても本作には堪えられない魅力があるのだ。それはズバリ言って、作者の時代劇に対する熱い思いである。

 劇中で描かれるテレビの連続時代劇は、打ち切りが取り沙汰されている。かつてはゴールデンタイムの定番であった時代劇は、今は風前の灯火だ。スクリーン上でも時代劇が展開するケースは少なくなっている。それでも、日本でしか撮れないこのジャンルを何とか維持していかなければ、我が国のエンタテインメント自体が地盤沈下してしまう。

 本作の登場人物たちは、時代劇の魅力に取り憑かれて損得抜きで付き合っている。過去から来た新左衛門も、この“空気感”があったからこそスンナリと現代に溶け込める。さらに風見恭一郎の“正体”が明らかになる後半のくだりは、まさにアイデアの勝利。タイムトラベルを時代劇に結び付けるメソッドとしては最良のものだろう。

 脚本はもちろん撮影や編集まで担当した安田淳一の演出は闊達でメリハリがある。随所に挿入される効果的なギャグと、絶妙な“泣かせ”の段取りには感心するばかり。キャストは主演の山口馬木也こそ少しは知られてはいるが、冨家ノリマサに峰蘭太郎、庄野﨑謙など無名の者ばかり。しかし皆良くやっている。特に優子役の沙倉ゆうのは本当にこの映画の“助監督”であり、作品内で有効に機能している。とにかく、一人でも多くの人に観てもらいたい快作だ。
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「Work It 輝けわたし!」

2024-10-06 06:27:56 | 映画の感想(英数)

 (原題:WORK IT)2020年8月よりNetflixから配信。典型的な青春スポ根ダンス映画で、こういうネタにおいては、よほど作りがヘタでない限り観ていてある程度の満足感は得られるものだ。本作もまさにそうで、不満を覚えることなく接することが出来る。加えて、今売り出し中の若手女優サブリナ・カーペンターが主人公に扮していることもポイントが高い。

 ノースカロライナ州在住の女子高生クイン・アッカーマンは、亡き父の母校である南部の名門デューク大への進学を目指し、勉学やボランティア活動に打ち込んでいた。しかし、一次面接試験でアピールポイントが不足していることを指摘されると、思わず同じ高校の強豪ダンスチームのメンバーであるとウソをついてしまう。

 確かに彼女はそのクラブに関与はしていたのだが、実は単なる照明係だ。窮地に追い込まれたクインは、チームで活躍する親友のジャスミンを引き抜き、経験豊富とは言えないメンバーをかき集めて新たなチームを結成する。だがクインは運動神経が鈍く、指導力も無い。そこで彼女は、かつてのダンス巧者で現在は足の故障で引退しているジェイク・テイラーを口説き落として、チーム顧問に据えることに成功する。

 ストーリーはこの手の映画の常道をキープする。つまりは“落ちこぼれたちが集まって、努力を重ねて大舞台で活躍する”というハナシだ。変わり映えは無いが、それだけに安心して観ていられている。ダンスの場面は万全で、腕に覚えのある者たちばかりが出ており、その妙技に目を奪われる。

 ヒロインの造型も、最初は素人臭さ全開ながら徐々に力を付けていくという定番の位置付けだが、とにかく明朗で前向きなのは好ましい。まあ、途中で挫折しそうになったり、勉学との両立に悩んだり、母親と進路に関してケンカもするのだが、上手い具合に解決する。ジャスミンとの友情やジェイクとの色恋沙汰も、スパイス的に挿入される。

 また、クインが社会奉仕活動のため通う老人ホームでの心にしみるシークエンスや、肉体的ハンディがある者ばかりで構成されたダンスチームの神業的パフォーマンスなど、興味深いモチーフも用意されている。ローラ・テルーゾの演出は堅実で、テンポが悪くなることも無い。

 主演のカーペンターは元気で好ましいキャラクターの持ち主で、演技も問題なくこなす。また、アメリカの女優としてはとても小柄で、なおかつ太すぎる眉毛がかなりのインパクト(笑)。これならばすぐに顔を覚えてもらえる。ライザ・コーシーにキーナン・ロンズデール、ミシェル・ブトー、ジョーダン・フィッシャー、ナオミ・スニッカスら脇のキャストも悪くない。
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「ランサム 非公式作戦」

2024-10-05 06:30:11 | 映画の感想(ら行)
 (英題:RANSOMED)先日観た「ソウルの春」では韓国映画のパワーを実感したが、本作のヴォルテージはそれを上回る。少なくとも、娯楽映画としては「ソウルの春」よりも優れていると言えよう。こういうシャシンは今の日本ではまず作れないし、ひょっとしたらハリウッドでも難しいかもしれない。とにかく、130分あまりの尺を一時もダレることなく楽しませてくれる。

 75年から90年にかけて断続的に発生したレバノン内戦。その間に首都ベイルートで韓国人外交官が行方不明になる。それから数年後、現任の外交官イ・ミンジュンは、その消えた外交官が武装組織に拉致されており、人質として生きているという情報を掴む。外交部長官の密命により、身代金を持って単身ベイルートへと出向いたミンジュンだったが、早速大金を狙ったギャングに襲われる。



 そこで偶然彼を救ったのが、韓国人のタクシー運転手キム・パンスだった。帰国のビザを出すことを条件にミンジュンに協力を持ち掛けたパンスと、渋々ながら行動を共にすることになったミンジュンは、極限状態にあるベイルートを人質奪還のために突き進んでいく。

 まず、キャラクターが良い。深夜うっかり人質からの電話を受けてしまったばかりに単身ヘヴィな場所に派遣されるハメになった小市民的ヒラ官僚のミンジュンと、成り行きでレバノンから出られなくなってタクシー運転手として糊口を凌いでいるパンスとのコンビは、まさに絶妙。スムーズに連帯感を醸し出せるはずもなく、隙あらばスタンドプレイに走る。ただ、こうした疑心暗鬼の果てに本物の仲間意識のようなものが形成されるという、そのプロセスの見事なこと。

 現地の武装組織も一枚岩では無く、金を横取りしようとする軍の連中も加わって、まさに仁義なき戦いが全面展開。さらには韓国側では外交部と安企部との確執が繰り広げられ、ブローカー役を買って出るスイス在住の黒幕みたいな奴まで出てきて、先の読めない群像劇が繰り広げられる。主人公2人が遭遇するトラブルは、いずれも絶体絶命のレベル。それが息もつかせず手を変え品を変えて畳み掛けてくるのだから、もう退屈するヒマも無い。

 キム・ソンフンの演出は強靱で、活劇シーンでは一点の緩みも見せず観る者を引き込んでゆく。そして終盤での思いがけない筋書きには、感心するしかない。主演のハ・ジョンウとチュ・ジフンは絶好調。身体のキレも表情の豊かさも及第点以上に達している。バーン・ゴードンやマルチン・ドロチンスキ、ニスリン・アダム、フェド・ベンシェムシなど他のキャストも存在感が強い。さて、直近のニュースではイスラエル軍がレバノンを空爆し、多数の犠牲者が出たことが報じられていた。この地域では、戦火が途絶えることは無いのだろう。だが、それでも平和を望まずにはいられない。
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「恋は光」

2024-10-04 06:25:56 | 映画の感想(か行)
 2022年作品。体裁は(普段は私はノーマークの)若年層向けのラブコメなのだが、快作「彼女が好きなものは」(2021年)での好演が印象的だった神尾楓珠が主役ということでチェックしてみた。結果、けっこう楽しんで観ることが出来た。何より、この手のシャシンにありがちな浮ついたタッチが控え目で、さらにテーマとしては浅からぬ素材を扱っているあたりがポイントが高い。

 岡山市に住む男子大学生の西条は、恋をしている女性が光って見えるという特異体質の持ち主だ。そのこともあって、本人は恋に対しては及び腰である。ある日彼は同じ大学に通う文学少女の東雲に一目ぼれしてしまい、恋の定義について語り合う交換日記まで始めてしまう。一方、西条には北代という幼なじみの女友達がいて、何かとウマが合う間柄なのだが、西条には彼女が“光って”見えていない。さらに彼の近くには、恋人がいる男ばかり好きになってしまう女子大生の宿木もいて、奇妙な四角関係が形成されてしまう。秋★枝の同名コミックの映画化だ。



 まず、やたら理屈っぽくて偉そうに能書きばかり垂れる西条のキャラクターが最高だ。実は彼には複雑な過去があるのだが、それも含めて彼と東雲とは共通点が多い。だから惹かれ合うのも当然かと思われる。恋多き女のようで、実は恋の何たるかを理解していない宿木の立ち位置も玄妙で、この“表面的な様相でのラブ・アフェア”という展開は、意外にも(私みたいなオッサン世代でも)共感度が高かったりするのだ。

 やっぱり外観および浅い認識の次元で関係を決めつけてしまうのは、人間の悲しい性なのだろう。その意味で、西条の“恋する女子の周りに光が見える”という設定は面白い。なぜなら、彼には“恋している女子”は光って見えるものの、どの時点でどういうベクトルで恋しているかを推し量ることは出来ない。だから突っ込んだ考察をする必要があり、及び腰な姿勢ではいられないのだ。その彼が、恋の何たるかを悟る終盤には、感慨深いものがある。

 小林啓一の演出は殊更に才気は感じられないが、堅実な仕事ぶりかと思う。神尾の演技は相変わらず達者で、キャラも立っている。平祐奈に馬場ふみか、伊東蒼といった面子も万全だ。そして北代に扮した西野七瀬のパフォーマンスにはちょっと驚いた。それまでは演技の拙い“坂道一派”の1人に過ぎないと思っていたのだが、ここでは目覚ましい仕事ぶりを見せており、今後の活躍も期待できる。野村昌平のカメラによる岡山市の町並みや後楽園、瀬戸大橋、倉敷市などの光景は(いくぶん色合いが人工的だが)とても美しい。
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