2016年3月30日 トゥルカナ族のセーリング

2016年03月30日 | 風の旅人日乗
深夜

図書館で借りた
向田邦子さんの本を読んでいて

あるページに載っている
写真に目を吸い寄せられた


©向田邦子 暮しの愉しみ
新潮社


セーリングしている!

向田邦子さん自身が
アフリカで撮影したという

忘れてはいけないので
向田さんの文章を
下に引き写しておこうっと

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男は、筏の上に立ち上った。
意外に小さい。
筋肉のつきかたも稚くみえる。
少年らしい。少年は、いきなり
白い腰布をはぐった。
筏の上で用を足すのかな。
私は二百ミリの望遠レンズを
カメラにつけ、ピントを合せた。

ところが右手の櫂を筏につき
バランスをとりながら
少年は思いがけないしぐさをした。

まくり上げた腰布の
左スミを左手で持つと高くかかげ、
右の端を口でくわえたのだ。

いつの間に風が出たのか、
白い布は大きく風をはらんでいる。

そのまま追い風に乗って、
かすかにさざ波の立つ
油のような湖面を
滑るようにすすんでいく。

少年の腰布は帆になった。
黒い鉛筆のような
二本の足を踏んばって、

痩せた彼のからだは
そのまま船の帆柱である

全ては一瞬の出来ごとだった。

私は夢中で
五枚だけフィルムの残っていた
カメラのシャッターを押した

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アフリカはケニアの
トゥルカナ湖でのことだったらしい


©Kuniko Mukoda


向田さんは”追い風に乗って”と
書いているが
風紋からすると
少年は筏を風下にではなく
ブロードリーチングで
走らせている

その相対風向に合わせて
風が入る腰布の左側を
左手で大きく前に突き出し

リーチ側になる腰布の右側を
引き込むために
口にくわえている

”帆柱”である自分の体を
筏の後ろに移して
腰布の風圧中心を
筏の後方に下げることで
軽いウエザーヘルムを作って

それを風下側の
右手で持つ櫂で
コントロールして
筏の針路を定めている

サバニやホクレアの
ステアリングと同じだ


ケニアは
人類が誕生したと
目されている地域である

トゥルカナ湖は
琵琶湖の10倍くらいある
大きな湖で、
ナイロビから車で3日間もの
距離だという

この湖の周囲に住む
トゥルカナ族が
他の海洋文化を持つ民族と
接触があったとは
考えにくい

アフリカ大陸の内陸でも
人類は古くから
セーリングを知っていたのだ