1.
今日(4月7日)、標記の講座が、慶應MCC(丸の内シティキャンパス)で開催されました。
講師:竹中平蔵先生
募集人員40名に対して、参加者は20名(当日1名欠席)でした。
昨年の3月11日以来、その被害の概要 ― 特に福島原子力発電所の被害のそのままの有様(ありよう)と、その時の対応内閣首班であった菅氏が取られた対応
― が明らかになるにつけ、衆目の一致する所、そこには国家の危機に対する政府首脳の対応能力の不全と、危機の情報伝達と、管理システムに不全が生じていたことが明らかにになり、以降、連日、マスコミは、a.原発の再稼働をどうするか、b.原発が動かない場合の代替エネルギーをどうするか、c.拡散した放射能の除染と食品・人体・家屋・自然の安全基準をどうするか、d.津波被害に遭(あ)って発生したガレキ処理をどうするか、e.被災地の再建に関わる政府与野党の対応の問題に議論に多くの時間を割(さ)いてきたにもかかわらず、また昨今、橋下(はしもと)維新の会の存在や、石原新党の話題が、世間の耳目(じもく)集め、橋下政治塾には3000名の応募があったにもかかわらず、当講座への参加者は募集人員半数の20名と意外に思うほど少なく、正直、日本の現在に対してリアルに危機意識を持っている人は、存外、少ないのだと認識させられました。
この両者の参加人員の差を考えるに、当講座の参加者にもたらす利益は、当人と当人の属する組織が3月11日以降に直面した、国家レベルでの問題意識を含めた、課題に対して、今後それを克服して行く将来ビジョンを描く手立てを本人に与えるのみ(むろんここには当人が優秀であれば、当人を通した組織の利益も発生します)であるのに対して、橋下政治塾の参加者には、地方議会、国政議会へ自分がポジションを得ることも可能だという期待があり、それが大きな期待的利益として見えている、その差ではないかと思います。
橋下維新の会への論評は避けますが、橋下氏のような大きな変革志向のエネルギーを持った人の登場は大いに歓迎される所です。
国旗・日の丸の掲揚と、国歌・君が代の斉唱を、大阪では公共の場で義務付けられました。
電力エネルギー政策については、「送発電分離と脱原発依存」と聞こえていますが、「脱原発依存」とは、原発は維持するがその電力に占める割合を小さなものとするとも、全く原発に依存しないとも読める、あいまいな言葉だと思います。
長期の気象変動を考慮した場合、核融合エネルギーによる発電を維持しておくことは、日本人の未来にとっても必要不可欠のことだと言えます。
また、首相公選については、
象徴元首としての天皇陛下の下(もと)での、議員内閣制がやはり無難なのではないかと思います。
何れにせよ、今回の参加人員の少なさを見て 、“美しい日本を作る会”、それも会員数100万人規模で国を支えるものを、作らなければならないという思いを強くしました。
2.
竹中先生のお話された内容
A.イントロダクション
a.政府が、『復興史』を記録しなければならない。
b.「複合連鎖危機」という言葉は先生が発案された。
c.2011年、日本は世界最大の援助受け入れ国となった。
d.リスク管理という観点から日本の教訓を世界に発信することが世界の人々への恩返しと考えた。
e.10人の政策専門家の手で、『日本大災害の教訓 複合危機とリスク管理』という本を作った。
f.北京大学、韓国の専門家の協力を得て、日本語・英語・中国語・韓国語の同時出版とすることができた。
g.現在は、世界でセミナーを開いている。
B.事実と教訓
Ⅰ.地震・津波・一般
a.3月11日から1週間、日本のテレビ番組は皆、同じ内容であった。
b.マーシャル(経済学者)は、「ウォームハートにクールヘッド」だと言った。
c.地震発生から3分後に津波警報を出せたのは日本だからだ。
d.安否確認には3日掛(か)かった。
e.日本の防災は市町村単位となっている。
f.市町村が壊滅すると安全=救援動線が動かない。
g.市町村が安全=救援動線であるシステムを改める。
h.クールヘッドが必要だ。
i.「津波てんでんこ」(津波が来たら親でも子でも放っておいて逃げろ)という言葉がある。
j.一回の地震・津波で50人が死亡した規模のものは、210年間に34回ある。
k.東日本大震災規模のものは、25年に1回発生している。
l.新幹線は地震のP波を感知すると運転を止めるシステムが開発されており、27編成が運転中であったが、事故はなかった。
m.経験を踏まえて改める。
n.東京のダメージ:観光客の減少。
32大使館が閉鎖した。
竹中先生は国際会議(ドイツ)に行くとき、成田からたたないでくれと言う要請を受けた。
Ⅱ.原発
a.東海原発は前年1メートルかさ上げしていた。(かさ上げしていた部分は聞き漏らしたため不明)。
b.同原発は、一基爆発を起こすと4基全て爆発する状況下にあった。
c.安全チェック: 東電のキャパシティの中でしか対応できなかった。
東電の示すデーターに対して「それは違うだろう」と言える立場(緊張関係)が確立されていなければならない。
小さな安心を得るために大きな安全を疎(おろそか)にして来た。
d.ミクロマネジメントとマクロマネジメント: 政府は大きな方向を示す。(マクロマネジメント)
e.菅さんはマクロマネジメントを忘れてミクロマネジメントをやっていた。
Ⅲ.社会
a.消費の自粛は男性よりも女性が顕著であり、若者より高齢者が顕著であった。
b.地震後には高級時計が売れる。(この原因は、高級品は保険の対象であるからとも、極限状態に置かれて時間を確認しようとする心理からとも言われている)。
c.年の差婚が増(ふ)え、結婚願望が増えた。
d.今回はインターネットが普及して初めての災害であった。
e.メールはパケット通信であるという強みがあるが、電気がないと使えないという弱点があため、バッテリーの重要性が確認された。
f.携帯電話の基地局を運営しているのはユニバーサルサービスを義務付けられた電話会社であったため、基地局にバッテリーがあった。
Ⅳ.経済1
a.今回の被害の固定資本総額は約16.9兆円であった。
b.危機は「複合連鎖危機」として現れた。
c.電力不足。
d.中長期的な改革の遅れ。
e.産業空洞化のリスク。
f.中央のマクロマネジメントの基づく管理機能が必要である。
g.復興にはサンク・コスト(都市計画などにおいて既存の街並みを取り壊す費用=除却費用)がゼロであるため、自由な都市プラン(大きな絵)を描くことができる。
h.3月11日から2ヶ月間は、外国人投資額は買い越しであった。
Ⅴ.経済2
a.サプライチェーン(企業の供給網=供給連鎖)が寸断され、GDPは大きなマイナス(自動車の2011年4月の生産は前月比マイナス54.2%)を記録した。
b.しかし、企業の努力によりサプライチェーンの回復は早かった。
c.生産は電力と比例関係にある。
d.原発の停止によって、例えば代替エネルギーをLNGに求めた場合、輸入費に3兆円を要し、貿易赤字を増幅させる。
Ⅵ.教訓
a.危機だから思い切った政策を行わなければならない。
b.しかし、原理原則を踏み外してはならない。
c.歴史の教訓
関東大震災の直後、当時の手形決済システムが機能不全に陥(おちい)った。この時、決済の困難な債権を日銀が割引く「震災手形割引法」が発布された。
これは、不良債権を「震災手形」と称して日銀に持ち込むモラルハザードを生み、4年後の昭和金融恐慌に至った。
d.課税平準化の法則
野田さんは、現代世代で負担するといった。しかし、100年に1度の震災なら100年で負担。
e.復興計画の大きな絵が必要だ。
後藤新平は、関東大震災後の東京を復興するのに、現在の貨幣価値で200兆円の計画を立てた。
最終的な実行予算は同20兆円規模となったが、この計画が現在の東京の骨格となった。
f.処置は早くなければならない。(履歴効果)
一度逃げた客は戻って来ない。
g.BCD(ビジネス継承計画)の重要性。
企業は世界の中に危機対応の生産継承システムを作らなければならない。
h.2012年度の予算は96兆円にアップした。
i.GDPの変化がないのにもかかわらず、バラマキが増えた。
j.若い世代の社会保障や成長のために金を使うべきだ。
k.GDPに占める日本の年金保障は現在世界で十分に高い。
C.質問に対する回答
Ⅰ.情報
a.東電、気象庁、保安院の広報担当者のクライシス・コミュニケーション(危機発生時のコミュニケーション)に戸惑った。
b.現状で何が起こっているか分からなかった。
c.日常からの信頼性が必要。
d.ダボス会議で日産のゴーンさんは、プリオリティ(優先順位=単数)をどこに置くかだと言った。
Ⅱ.マネジメント
a.(多国籍にわたる)多様な人材が必要。
b.パターン化しない。
c.“パッション(熱情)”と“戦略は細部にわたる”こと。
満開の桜
同
東京駅