いよいよ本題の小泉首相と胡主席のやり取りです。日本側の主張の重点は、ガス田開発、六カ国協議、原潜問題だったと思います。
中国側は自分達に都合の良くない事項については、直接の言及を避けるというスタンスだったと思います。小泉首相が「東シナ海を対立の海にしてはならない」「(領海侵犯事件については)再発防止が重要だ」と述べたのに対して、胡主席は「懸案は大局的に考えるべきだ」と答えるにとどまった(毎日新聞)という。
なるほど、当然の対応で敢えて不利な内容の事項には相手をしないようにすれば、不毛な議論となることもない。「老獪さ」はこんなところに出ていたのではないか。無理に言及しない、これはさまざまな場面で使える方法ではないか。考えてみたら、当たり前なんですが、実行するとなるとテクニックが必要かもしれませんね。だって、例えば「昨日遅刻したでしょ」と追及されたら、「考えてみたい」というような答えをするのですから、普通には用いるのに勇気がいりますね。でも、外交の舞台では必要なテクニックなのでしょう。
小泉首相も深く追いかけず、特に原潜問題について簡単に言及するに留めたのは正解であろう。相手に不快感を強調するよりも、対話姿勢を伝えたことは意義があったと思う。
中国側の最大の主張である靖国問題では、はっきりとした直接的な発言でした。「靖国参拝が日中間の政治停滞、困難の原因」とし、「適切に対処してほしい」と述べたようだ。これに対して「歴史を大切にすることは重要だ」「靖国参拝について(の発言を)誠意を持って受け止めたい」と答えているが、従前のやや強硬な発言とは異なり、中国側へ日中協調路線の小泉首相の考えを伝えることができたと思う。首相が受け入れ姿勢を示したことは、今後の北朝鮮外交でも生かされてくる可能性が出てきたと見てよいと思っている。
ただ余計だったと思うのは、理由について細かに答えてしまったことではないかと思う。元々小泉首相の考えがあるのは向こうも判っており、先の答えを述べるだけで十分対話姿勢が伝わると思う。中国側が原潜問題やガス田問題に細かな言及を避けたのとは対照的であった。中国側がはっきりとした表現を用いたのは、中国国内の反発を抑制するためではないかと思う。日本に対して協力関係を断ろうという意図ではないと推測する。
北朝鮮問題では、双方の見解はほぼ一致しており、中国側の「早期再開に努力」「朝鮮半島の非核化堅持」を確認できたことは日本にとって重要であったと思う。進展の見られない北朝鮮との交渉に有利な材料となると考えている。
日本にとってもう一つ意味のある事項があった。台湾問題である。中国側の懸念材料として最大であると考えてよいと思う。中国側は「台湾が独立を目論んでおり、座視できない」「緊張の源」というように厳しい表現をしてきた。日本は「台湾独立を支持しない」とはっきり言い切ってしまったことはちょっともったいなかったと思う。せめて「両岸の対話と解決に向けて最大限の努力することを日本の役割と考える」くらいにしておけばよかったかもしれない。日本の態度をここで明言する必要がなく、今後中国側に貸しを作ることができるチャンスを失ってしまったかもしれないからである。
相手が「協力してほしい」と思うことを、今すぐ「はいそうですか」では、交渉の妙味が失せるというものだ。言ってみれば中国外交にとって最大の困難な問題であるかもしれないのに、あっさり日本の支持を取り付けてしまったのだ。たとえ日本が共同宣言を守ると思っていたとしても、当事者である中国は不安要素がなかったわけではないと思う。うーん、おしいことをしました。
新聞などでは、「日中間の溝が埋まらず」というような見方もあるようですが、私は大きく前進したと思います。小泉首相が対中外交において「中国何するものぞ」という強硬派ではないことが、中国の新指導部に理解されたことが大きな成果であったと考えるからです。日本の原潜問題での国内反発を抑えたことと、対中協調姿勢については一定の評価が得られたと思われます。よって中国は六カ国協議等で今後日本に協力的な部分が出てくると思います。
あーあ、台湾問題にもっと考えて答えてほしかったなー。
早速小泉首相は「都合の悪いこと」は言及しない、という作戦を実行しているようです。記者団に靖国問題について質問されても「答えません。他の質問をして下さい」と言ったそうです。少し学習効果が出てきたのでしょうか。まーあ、今中国の尻尾を踏んづける必要はありませんからね。