今年の通常国会もどうやら21日あたりで閉会になりそうである。
そうなれば、政府が提出している法案をいかなる手段を使ってでも成立させようとする。
その昔(与野党が伯仲していたころ)の国会は、国民の反対が強い重要法案は1回の会期では成立せず「複数国会で成立」ということが当たり前であった。
それが中曽根内閣時代に、「国鉄の民営化」に伴う国労の弱体化、それが総評というナショナルセンターが「連合」となり、必然的に社党がなくなり、少数野党の乱立を経て、現在の国会からは「与野党」という言葉がなくなり、ある意味では「形容矛盾」ともいわれる「提案型野党」という与党に真っ向から反対しない野党や、隙あらば与党と組みたいと虎視眈々と狙う「ゆ党」などが闊歩している始末。
これでは与党も重要法案もひとつづつ審議するのも面倒といわんばかりに、「「十把一絡」という「束ね法案」を国会に提出するという悪しき慣習が定着している。
久々に在京大手紙の社説がまともに批判していた。
◆朝日新聞 「(社説)束ね法案 審議の形骸化防ぐ策を」
政府が国会に法案を提出する際、関連する複数の改正案などをまとめて1本にする「束ね法案」と呼ばれる手法がある。 趣旨や目的が同じで、相互に関連する法案を一括して審議するのは理にかなっているが、個々の吟味がおろそかになれば、審議の形骸化は避けられない。 採決は一括して行われるため、野党からすれば、個別に賛否を示す機会を奪われることにもなる。賛同できる法案が含まれていても、異議のある法案への態度表明を優先すれば、全体として反対せざるをえない。 効率的に法案を処理したい政府・与党には利点があるが、一つ一つの法案の検討が尽くされなければ、国民のためにもならない。とりわけ世論の賛否が分かれるテーマでは、束ねることの弊害は無視できない。 先週、成立したGX脱炭素電源法がそうだ。原発への「依存を減らす」から「最大限活用」へ、エネルギー政策の大転換にもかかわらず、議論は不十分なまま。 疑問に正面から答えない政府側の不誠実さもあるが、原子力基本法、電気事業法、原子炉等規制法、再処理法、再生可能エネルギー特別措置法の五つの改正案を一本化したことで、論点が拡散した面もある。 参院本会議で賛成討論に立った国民民主党の議員が、原発と再生可能エネルギーに関する法案は分けて審議すべきだったとして、「国民に丁寧に説明する機会を逸した」と述べたのも、その自覚があるからだろう。 16年成立の環太平洋経済連携協定(TPP)関連法は11本、18年の働き方改革関連法は8本、深刻なトラブルが相次いで見つかる中、先週成立したマイナンバー関連法は13本など、多くの重要法案が束ね法案の形をとる。数が多いからよくないと、一概には言えない一方で、妥当とは言えない束ね方も少なくない。 20年には、政府の判断で検察幹部の定年を延長できる特例を盛り込んだ検察庁法改正案を、国家公務員の定年を65歳に引き上げるための法案と抱き合わせで成立を図った政権の姿勢が厳しく批判された。 集団的自衛権の一部行使を可能にする15年の安全保障法制も、武力攻撃事態法や自衛隊法の改正案など10本の束ね法案で、国民が問題点を十分把握仕切れないうちに法案を通してしまおうという政府の思惑を指摘する声があがった。 関連法案は一緒に審議するが、一つに束ねず、採決は法案ごとに行う。束ね法案にする場合は十分な時間を割く。行政監視という立法府の責務を果たすためには、与野党の立場を超えて、審議を空洞化させない方策を探るべきだ。 |
同様な内容がスポーツ紙のコラムにもあった。
◆日刊スポーツ スポーツ 「【政界地獄耳】法案提出ラッシュで見えてくること」
★通常国会は21日の会期末が見え始め、法案提出ラッシュが続いている。今国会の5大法案といわれたうち、2本が可決された。ひとつは「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律」だが、原子力発電所の運転期間の60年超への延長を盛り込んだGX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法。もうひとつはマイナンバー法改正。来年9月までで健康保険証が廃止になり、マイナンバーカードに一元化される法律だ。 ★GX法は運転期間の60年超への延長が最大の眼目だが、運転開始から30年以降は10年以内ごとに点検を受けることを義務付けるという長期運転に係る規制強化も盛り込まれた一括法で、立憲民主党は対応に苦慮した。マイナンバー改正法は審議中にもマイナカードと一体化した保険証に他人の医療情報を誤連携するミスや、コンビニ交付サービスの不具合などマイナンバートラブルは後を絶たない。システムや登録の総点検を首相・岸田文雄が指示している中での可決となった。 ★ほかにも「我が国の防衛力の抜本的な強化等のために必要な財源の確保に関する特別措置法案」(防衛財源確保法)「性的指向又は性自認を理由とする差別の解消等の推進に関する法律案」(LGBT理解推進法)「出入国管理及び難民認定法改正案」(入管法改正)はいずれも衆院から参院に議論の場が移っているが、議論が生煮えだったり問題にふたをしたまま進めている。あえて言えば法律はできたもののどう運用するかに至っては政治の仕事ではなくなりかねない。法律さえ通ればあとは各省が運用しながらこなれていけばいいという考えかもしれないが、それでは国会で審議し議事録に残してきた意味が薄れる。政界も官界も今まで通りの審議と可決で丸く収まったなどと思わない方がいい。 |
一方、経済面から、複数の大学の経済学部教授を歴任した金子勝慶応義塾大学名誉教授は経済面からこのように批判していた。
「かつてない悪法成立ラッシュ 世襲政治家の凡庸な悪が推し進める反動化」
既存原発の60年超運転を可能にするGX脱炭素電源法、国会のチェックが利かない予備費や基金を流用して防衛費倍増を実現する防衛財源確保法(財確法)、先端産業の衰退を放置して軍需産業を救済国有化する防衛産業基盤強化法、問題だらけなのに用途を無制限に拡大する改正マイナンバー法──。 日本を危うくする悪法がこれほど一気に仕上がっていく国会がかつてあっただろうか。この国が守ってきた民主主義的な、あるいは平和主義的な考え方が一変させられた。 とりわけ問題なのは財確法だ。際限のない防衛費膨張を招きかねない。防衛財源の確保が厳しいため岸田首相が統一地方選の目玉に据えた「異次元の少子化対策」は出足からつまずいた。2024年度から3年間の集中期間に必要となる追加予算は年3.5兆円に膨らみ、医療保険料の上乗せ、社会保障費の歳出削減をやっても、まだ足りない。つなぎ国債に頼るほかない。岸田は結局、世論の反発にたじろいで、財源確保の具体策を示さないまま「年末までに結論を出す」と先送り。今月中に閣議決定する「骨太の方針」に盛り込むのを見送った。 つまるところ、何もかもを赤字国債に依存。防衛費も少子化対策費も借金で工面しようという流れになっている。国是である平和主義を放棄して軍事大国化し、社会保障を削減する反国民的な政府。安倍元首相でさえできなかった反動化を推し進めている。 そして岸田政権はアベノミクスを続けていくしかない。日銀の植田総裁はアベノミクスを批判し、金融正常化を目指しているように見えるが、結局、国債を買って支えるほかない。その結果が円安株高であり、インフレ高進でもある。 |
「安倍元首相でさえできなかった反動化」と岸田文雄はまさに「安倍晋三を超えた」ような「世襲政治家の凡庸な悪」と断罪している。
安倍晋三も岸田文雄も世襲政治家なのだが、安倍晋三は「バカ息子」には残念ながら恵まれなかったのだが、岸田文雄には3人もの息子がいるが、かっては「辛口評論家」と称されていた佐高信はこんな逸話を岸田文雄と長男のバカ息子に贈っていた。
「岸田家の「父子バカ」に聞かせたい。“平民宰相"原敬と息子の話」
■父子鷹ならぬ父子バカ 5月27日付の『朝日新聞』に「どれだけの恥か気付かぬ親子かな」という川柳が載っていた。岸田の息子の論外の首相公邸での忘年会騒ぎを指してである。「世襲です泣いて馬謖を斬りませぬ」ともあったが、最初、岸田は首相秘書官の翔太郎を更迭しないつもりだった。 平民宰相の異名をとった原敬の養子の奎一郎が父について書いている。 奎一郎が小学生の頃に、隣に同年輩の遊び友だちがいて、彼の父親が国技館の相撲を見に行くのに誘ってくれた。奎一郎は行きたくて、母親に尋ねたら、「いいと思うが、一応父親に訊いてみる」。すると敬は「隣家の主人は何をする人か」と問い、「商人です」と答えると、「断れ」と言われた。 それで母親は「今日は都合が悪いから折角ですが御一緒できませんと言って断りなさい」と奎一郎に伝えたという。残念に思った奎一郎の回想を引く。 「子供心に僕は父を狭量だと思わざるを得なかったが、そのとき僕は母から政治家としての父が実業家から不当な恩恵をこうむることを極度に避けなければならないという意味のことを説明されてやや納得した」 書き写していて、原と岸田のあまりの違いに空しくなる。岸田自身も二世だから、公職私有を当然のように思っているのだろう。 原の遺言の中に、ある人から贈られた数万円(当時の金額である)の銀行預金を、自分の没後直ちに返却しろという一項があった。原は何度も断ったのだが、どうしてもと言われてやむをえず手元に置いたが、この人のために何らかの尽力をした覚えがなく、受納すべき理由がないから、没後直ちに返すべしというのだった。 奎一郎は「僕が遺言状のこの一節に接して、子供のとき隣家の一行に加われなかった理由を、今更の様に思いおこしたことは言うまでもない」と記している。 原が遺言状を書いたのは、原の身辺を狙う者があるという警報がしきりに伝えられる頃だった。原は護衛を極度に忌避した。「十重二十重にしていたって、やられる時にはやられる。護衛などしなくても、やられない時にはやられない」と常々、原は言っていた。 奎一郎はイギリスに留学したが、母親に、「イギリスから帰って来たら、お父さんは僕を秘書官にでもして下さるつもりかな」と尋ねると、彼女は笑って言った。「お前さんなんかにお父さんの秘書官がつとまるものか」。 浜口雄幸も犬養毅も軍人政治に待ったをかける軍縮を推進して凶弾に倒れた。軍拡の岸田との決定的な違いである。 |
ちなみに『父子鷹』(おやこだか)は、子母澤寛の有名な小説なのだが、それは「父と子が共に優れた能力を持っていることを表す」比喩として用いられる。
この演歌歌手もこう歌っていた。
世間では、「『ボーナス狙い』の臆測、慌てた官邸 首相長男更迭のウラで(2023年6月7日配信」とまでうわさされていることから、原敬は平民宰相と呼ばれていたが、残念ながら裕福な家庭に育った岸田文雄は「世襲最小」首相として歴史に名お残すかもしれない、とオジサンは思う。