新・定年オジサンのつぶやき

残された日々をこの世の矛盾に対して勝手につぶやきます。
孫たちの将来に禍根を残さないよう、よき日本を「取り戻したい」。

もはや米露対立は過去のもので米中決裂か

2025年01月14日 13時02分21秒 | 日本経済

元TBS北京支局長で中国通の老ジャーナリストの田畑光永氏がこんな記事を書いていた。
 
―トランプの大風呂敷 対 習近平の「蠅貪蟻腐」?
 

日鉄がUSスチールを買収するという一件が日米間に波紋を広げた。なんと大きな会社が売り買いされるものだと、感心していたら、グリーンランドを米のトランプ次期大統領が買い取ると言い出した。グリーンランドは北極圏に近いとはいえ、面積は216.6万平方キロ、「世界最大の島」だそうで、日本列島の37.8万平方キロの5.73倍にもなる。これはまた日鉄とは比較にもならない大きさである。
 と、思っていたら、中國の新聞記事で「蠅貪蟻腐」(日本式に読めば、エイタンギフ?)という奇妙な4文字が目に飛び込んできた。話は急に小さくなったのだが、調べてみると、この4文字の意味は「蠅の貪(むさぼり)と蟻の腐(腐敗力)」、この2つを合わせて「極小動物が木造建築物を中から腐らせる」という意味になるのだそうである。
 なんでこんな比喩が中国の新聞に登場したのか。中國では年初にいろいろなテーマで大きな会議が開かれるが、「腐敗撲滅」もその一つで、北京で6日から8日まで中国共産党第20期中央規律検査委員会第4次全体会議という長い名前の会議が開かれた。トップの習近平総書記が演説し、李強首相以下中央政治局常務委員6人も全員出席するという、格付けとしては最高クラスの会議である。主たる出席者は131人の中央規律検査委員とほかに列席者が247人。
 議題はといえば、当然、昨年1年の反腐敗闘争を総括し、今年の活動方針を決めることなのだが、今年の活動は「政治問題と経済問題が交錯する腐敗案件を重点的に」ということで、採択された「工作報告」にはその分野が次のように並べられているーー             金融、国有企業、エネルギー、消防、煙草、医薬、大学、開発区、建設工事、入札。
 ヘー、こういう分野で汚職が盛んなのですか、でも消防とか煙草の汚職とはどういうの?などと読み進めると、出て来た。
 「大衆に身近な不正の風、腐敗を集中的になくすために、『蠅貪蟻腐』に通常を越えた懲罰を加え、大衆の利益を守り、党の執政の根元を固めなければならない」
 そして「蠅貪蟻腐」の内容としては、ここでは「校園餐」、農村集体「三資」管理の二つが挙げられている。後の「三資」については、農村振興資金、医療保険基金、養老サービス基金の3つが言及されているので、この3つの資金、あるいは基金の管理に不正がないかをきびしく調べるということらしいと見当がつく。分からないのが「校園餐」だが、読み進むうちに、「学校給食」だと判明した。学校給食における不正といえば食材の仕入れとか、働き手の人件費とかだろうが、そういうところにまで「反腐敗」の目を光らせることを、建物に巣食う「蠅」や「蟻」の退治になぞらえているのだ。
 腐敗といえば、お偉いさんたちの世界のことだと思うな。庶民の身近なところにも蠅や蟻のように腐敗の種が転がっているのだ、というのが、「蠅貪蟻腐」を登場させた当局の思惑らしい。しかし、待てよと思う。腐敗といっても、中國共産党や政府のお偉いさんが権力をかさに巨額の不正を働くのと、それこそ蠅や蟻のように見下されている庶民の小さな不正を同日に論ずるのは不公平ではないか。
 いったい蠅や蟻はどれほどの不正を働いているのか、どこかに資料がないものかと、中國の検索サイト『百度』で「蠅貪蟻腐」をつついていたらあった!
 それによると、全国の規律検査監察機関が2024年に「蠅貪蟻腐」をないがしろにせず、民衆の身辺の不正腐敗を摘発したところ、総件数は60万件近くに上り、処分46.2万件、送検された人数は1.5万人に上った、とある。
 ほうなかなかやるではないか、と一瞬思ったが、すぐ奇妙なことに気づいた。この3つの数字がアンバランスなのである。処分件数と送検件数が離れすぎている。摘発された事例(60万件近く)のうちその75%以上(46.2万件)にはなんらかの処分が下されたのだが、検察に送られたのは1.5万人ということは、かりに60万件が60万人だったとしても、送検されたのはわずか2.5%にすぎない。もし1件あたりの人数が複数という場合が多ければ、送検率はもっと低いことになる。
 もっとも送検されなくとも46万件以上は処分されているわけだから、その大部分は戒告とか、出勤停止とかの行政処分を受けたことになる。想像するに、「蠅貪蟻腐」で職場の不正を暴けという号令がくだり、それを受けて職場で密告競争のようなことが起こり、脛に傷を持っていそうな60万人以上がやり玉に上げられた。しかし、大部分は「送検されて法的処分」とはならず、職場の規律違反のような形で軽微な処分を受けて終わった、ということを、これらの数字は物語っているのではないか。
 お手盛りの憲法改正(2018年)で、国家主席の任期制限(1期5年、2期まで)をなくして共産党と国家のトップの椅子に2013年以来10年を越えて座り続けている習近平総書記・国家主席だが、やはり無理はできないもので、このところ政権にとって明るい話はさっぱり聞こえてこない。
 不動産業の不振が全体の脚を強く引っ張るなかで、なかなか経済全体に元気が出るというわけにはいかない。昨年12月の中央経済工作会議では、今年の経済政策として、積極的財政政策を実施し、財政赤字の対GDP比率を高め、地方政府の特別債権発行を増やすなどの対策を講じるとともに、金融面でも適度に緩和的な政策を実施することを打ち上げた。赤字、借金に眼をつぶって、景気をよくしようという苦肉の策だ。
 それが功を奏するか否かはこれからだが、年明け早々に腐敗撲滅の強化を打ち出したのは、習政権発足当時、大物腐敗犯を次々摘発して新政権の人気をあおった前例の再来を狙ったものかもしれない。しかし、大衆の身近な小悪を挙げることが人気につながるだろうか。国民は大物がどこにいるか、分かっているのだから。
 習政権がスタートした直後、確かに大物の腐敗犯が摘発され、政権の人気は上がった。最近も現職の外相、国防相が首になり、特に軍関係の腐敗狩りはいつ終わるとも分からず続いている。しかし、名前は出てきても、具体的にいかなる罪を犯したかについては、相変わらず政府は口をつぐんだままである。
 「蠅貪蟻腐」もいいけれど、これまで摘発された大物たちの罪状を明らかにする方が、よほど国民の支持が得られるのではないか。年頭にあたって、歴代大物腐敗犯の罪状一覧を公開することを期待する。国民に中国政治の実体を知らせるべきだ、そろそろ。

 
ウクライナ対応で精一杯のロシアのプーチンとは相手しないトランプはもはや眼中には中国しかいないのかもしれない。
 
 
 
一方、 中国を始めとする東アジアの関連図書を多数上梓している『現代ビジネス』編集次長の近藤 大介はこんな記事を発表していた。
米「ユーラシアグループ」が描くトランプ新時代の「地獄の黙示録的」米中決裂
 
■トランプ政権の発足
来週20日に、いよいよアメリカでドナルド・トランプ政権が発足する。日本を含めた世界中が、今後4年続く予測不能な「超大型ハリケーン」への対応に追われることになる。
トランプ政権下の世界とは、一体どのようなものになるのか?
世界の地政学リスクを研究しているアメリカの独立系シンクタンク「ユーラシアグループ」(イアン・ブレマー代表)が1月6日、毎年恒例となっている「2025年世界10大リスク」(以下「レポート」)を発表した。全文は46ページで、アドレスは(略)

コロナ禍になる前あたりから、ユーラシアグループの「予言」は頗(すこぶ)る的中率が高いので、私も毎年注視している。今年の「世界10大リスク」とは、具体的に以下の通りだった。
1. 深まるGゼロ世界の混迷
2. トランプの支配
3. 米中決裂
4. トランプノミクス
5. ならず者国家のままのロシア
6. 追い詰められたイラン
7. 世界経済への負の押し付け
8. 制御不能なAI
9. 統治なき領域の拡大
10. 米国とメキシコの対立
何とトップから4番目までが、トランプ新大統領に関係することだった。(10)も含めれば、全体の半分が直接の「トランプ関連」である。
■「私たちは再びジャングルへと向かっている」
まず、冒頭の「はじめに」では、こう記していた。
<世界で圧倒的な力を持つ米国と中国は、地球全体に対する責任を果たすことを断固として拒否している。共通して国内の敵を最優先に考え、自国の安定への脅威を懸念している。両国で影響力を増している政治的・経済的価値体系は非常に近視眼的で、国民の大多数、特に幻滅感を強めている若者たちの役に立っていないことが明白になってきている。「国々の共同体」は、今日ではもはやおとぎ話だ。(中略)
私たちは再びジャングルのルールが支配する世界へと向かっている。強者は好き勝手に行動し、弱者は耐えるしかない。そして国家であれ、企業であれ、個人であれ、強者は支配下にある人々の利益のために行動するとは限らない。
これは持続可能な道ではない>
まるで「地獄の黙示録」のような暗黒の世界が始まりそうではないか。これは大ごとである。
その中で、私は中国ウォッチャーなので、(3)の「米中決裂」を中心に、以下見ていきたい。
第一に、トランプ時代の米中関係を考える上で、避けて通れないのが「関税問題」である。「タリフ(関税)マン」を自称しているトランプ次期大統領は、昨年の選挙期間中から、「中国製品に60%の関税を課す」などと吠えまくってきたからだ。
この関税問題に関して、レポートでは、次のような「予測」を立てている。
<トランプは就任して数週間のうちに、中国製品に新たな関税を課すことを発表し、実施に移すだろう。中国から譲歩を引き出すために関税を活用するという意図だ。
全製品に一律 60%の関税を課するという脅しは実現されないだろうが、一部の製品の最高税率はすぐに 50%から 60%に、あるいはそれ以上に引き上げられ、2025 年末までには中国からの全輸入品への平均適用税率は約 2 倍の 25%前後になるだろう。たとえ財務長官に指名されたスコット・ベッセントが、米国通商代表に指名されたジェミソン・グリアのような強硬派を説得して最高税率を 40%に抑えるという、より穏健なシナリオになっても、中国のレッドラインを超えることになる>
■中国の「政治の季節」に関税アップ
このように、トランプ新政権が中国向けの新たな関税を発表し、実施に移す時期を、「就任して数週間以内」と予測している。トランプ新政権が発足するのは1月20日だから、2月ということになる。
中国の暦(こよみ)で見ると、今年は1月29日が、14億中国人が一年で最も大切にする祝日の「春節」(旧正月)で、1月28日から2月4日までが公休日である。そして春節の大型連休が明けると、共産党の中央政治局会議などを経て、3月5日から一週間ほど、年に一度の全国人民代表大会(国会)を、北京の人民大会堂で開催する。並行するように、3月3日から一週間ほど、年に一度の中国人民政治協商会議(政府への諮問機関の全国大会)も北京で開かれる。
つまり、トランプ新政権が新たな中国向け関税をブチ上げる2月後半から3月前半にかけては、「政治の季節」なのだ。
2018年、第1期トランプ政権が「宣戦布告」した米中貿易戦争の時は、もう少し「紳士的」だった。というのも、3月20日に北京で全国人民代表大会が終了するのを待って、その2日後にトランプ大統領が会見したからだ。そこでトランプ大統領は、「中国製の鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の追加関税をかけ、それ以外に600億ドル分の中国製品に追加関税をかける!」と宣言した。
7年前は、「中国側の日程」を配慮するくらいの「気遣い」はあったのだ。ちなみに、その時の米中貿易戦争は、下記のように進行した。
〇2018年3月……トランプ大統領が「宣戦布告」
〇2018年7月……第1弾として、米中双方が340億ドル分ずつ追加関税
〇2018年8月……第2弾として、米中双方が160億ドル分ずつ追加関税
〇2018年9月……第3弾として、アメリカが中国に2000億ドル分の追加関税、中国がアメリカに600億ドル分の追加関税
〇2019年9月……第4弾として、アメリカが中国に3000億ドル分の追加関税、中国がアメリカに750億ドル分の追加関税
〇2020年1月……ワシントンで米中が「ファースト・ステージの合意文書」に署名して終息
アメリカは2021年1月にジョー・バイデン政権に移行したが、バイデン政権は新たな対中貿易戦争は起こさなかった。ただ、トランプ前政権が敷いた上記の追加関税を、もとに戻すこともしなかった。
そうした中で、今回のレポートによれば、「2025年末までには中国からの全輸入品への平均適用税率は約 2倍の 25%前後になるだろう」。そうなると、これもレポートが記すように、「中国のレッドラインを超えることになる」。
■「中国が譲歩する可能性は低い」
前述のように、中国の暦で言えば、年に一度の「政治の季節」にぶつかるわけだから、当然ながら習近平政権は、弱腰は見せられない。もし少しでも弱気なところを見せたら、政権は揺らいでしまう。
そのあたりの事情を、レポートではこう記している。
<前回の貿易戦争時よりも悪化した経済状況で 2025 年に突入したにもかかわらず、中国の指導者たちは今、より強硬な対応を取る構えを見せている。国内で屈辱的だと受け止められることを恐れ、譲歩する可能性は低い。
2020 年の出来事、すなわち新型コロナウイルス感染症のパンデミック時に両国関係が悪化し、中国の指導者たちは、米国が中国の台頭を封じ込め、ひいては中国共産党体制を転覆させることを狙っていると確信している。マルコ・ルビオ、マイク・ウォルツ、スティーブン・ミラーといった対中タカ派を起用するなど、複数の分野でトランプ政権が早期に着手した動きは、この確信を強めることになるだろう>
私も、まさにここで書かれている通りだと思う。そもそも習近平政権には、根強い「アメリカ陰謀論」がある。「アメリカが中国に手を出して来るのは、中国共産党体制を転覆させる狙いだ」という発想である。
旧ソ連や旧東欧諸国、今世紀に入ってのアフガニスタンやイラク、2010年代の北アフリカや東欧の「アラブの春」、2014年のウクライナ、ひいては最近のシリアまで。アメリカは自国に従わない国々を、ことごとく転覆させてきたというのが、中国共産党史観なのである。そのため、習近平主席は2023年3月に3期目の政権を発足させた時、「総体国家安全観」という方針を前面に打ち出し、「決然として体制や国家を守る意志」を明確にしたのだ。
だが一方で、習近平政権は2020年から2022年まで、3年間も「ゼロコロナ政策」を貫徹したため、中国経済が急降下した。本来なら2023年は、経済のV字回復のため、「発展」(経済の改革開放)を優先させるべき年だった。それなのに「安全」を優先させたため、2023年の中国経済は、さらに降下した。
2024年は、そうした状況に対する揺り戻しが起こり、3月以降、徐々に「安全」を後退させて、「発展」を前面に出すようになった。外交政策も、「戦狼(せんろう)外交」(狼のように吠えまくる外交)から「微笑外交」に切り替えた。昨今、急に日本に「微笑み」を見せているのも、その一環だ。
■中国は米農産物の輸入を停止する」
ところが、来月からトランプ新政権が再び貿易戦争を仕掛けてくれば、中国も報復に走り、再び「総体国家安全観」が頭を擡(もた)げてくるだろう。レポートでは、こう記している。
<トランプ政権の行動とレトリックは、両国の関係をまがりなりにも安定させてきた要因を圧倒し、中国の報復を招くことになるだろう。中国は、市場とインフレがトランプの立場を軟化させることを期待して、象徴的な関税を課すことから始めるかもしれないが、米国が譲歩しない場合は、米農産物の輸入停止、重要鉱物と防衛サプライチェーンの輸出規制、米国企業、とりわけ半導体や新疆ウイグル自治区関連企業の市場アクセスを制限する狙いを絞った調査、軍事、法執行、その他の外交チャンネルの停止、そして米国の中国周辺でのパトロールの妨害や米国の同盟国への圧力(米国のタイフォンミサイルシステムの配備を進めているフィリピンに対する中国の怒りは大きい)といった非対称的な動きなどだ。台湾や南シナ海近辺での大規模な軍事演習もあり得る>
さらにそこに技術戦争も加わると、レポートは記している。
<注目すべき重要な分野の一つは技術政策だ。中国政府と多くの国民は、米国の政策が中国の技術を現状レベルで凍結し、同国の経済発展を妨害しようとするものだと直感して反発している。字節跳動(バイトダンス)が TikTok の米国事業を売却する期限は 1 月 19 日で、トランプのコントロールは及ばないが、一般の中国人にとっては神経を逆なでするものとなるだろう。
輸出規制の分野では、トランプの安全保障の専門家たちは、おそらくより多くの中国企業をエンティティー・リスト(禁輸リスト)に追加し、ライセンス取得をより困難にし、バイオテクノロジーなどのセクターに規制を拡大し、回避の抜け穴をふさぎ、域外適用を広げ、バイデン政権時代の先端半導体の輸出規制を継続するだろう。トランプへの牽制として中国は昨年 12 月、米国の技術封じ込め政策に対抗して重要鉱物の輸出規制で報復する構えを見せている>
このように、トランプ政権下で、米中のデカップリング(分断)は不可避だという見方をしているのだ。
■トランプ関税が中国の輸出に打撃」
バイデン政権の公式見解は、「デカップリングではなくデリスキング(リスク減少)を求めていく」というものだった。つまり、中国を敵対視しているのではなく、単に経済安保上、もしくはビジネス上のリスク軽減を図っているに過ぎないという言い方だ。この「方便」は、2023年3月にウルズラ・フォンデアライエンEU委員長が提唱し、西側諸国に広まっていった。岸田文雄前首相も、よくこの言葉を口にしていた。
ところが、レポートが示す近未来の米中関係は、どうみても米中技術戦争であり、デカップリングである。実際、その部分をさらに掘り下げている。
<無秩序なデカップリングのコストは甚大なものとなるだろう。低迷する中国経済で唯一明るい兆しを見せているのが輸出だが、トランプ関税は打撃となる。米国への輸出は中国のGDP の 3%を占めており、高率の関税は中国の成長目標達成の妨げとなるだろう。中国は景気刺激策で影響を相殺しようとするだろうが、習近平が成長より安定を優先しているため政策は漸進的で対症療法的になり、国内需要は喚起されないだろう。
米国は価格上昇によってツケを支払うことになる。管理されないデカップリングは、グローバルなサプライチェーンを混乱させ、貿易の流れの再構築を迫り、世界中の企業と消費者のコストを増加させるだろう。
米国が国家安全保障上重要とみなす経済セクターを囲い込もうと「フェンス」をさらに高くし、輸出や投資の制限を医療セクターなどにも拡大する可能性があるため、世界経済のより多くの部分が分断されることになるだろう。効率性とイノベーションは低下する。世界の大半の国々は対立に巻き込まれることを望まず、近い将来に新たな冷戦が起こる可能性は低い。しかし日本、韓国、メキシコ、欧州連合(EU)など米国の主要な同盟国・貿易相手国は、少なくとも国家安全保障に関連する分野において、自国の経済に大きな犠牲を払って、どちらかの陣営に属することを迫られる可能性がある>
レポートが指摘するように、米中デカップリングが進んでいけば、現在ドン底の状況にある中国経済のV字回復が、さらに遠のく要因にもなる。
中国の経済成長を牽引する「3輪馬車」である消費・投資・輸出のうち、国内消費は落ち込み、昨年通年の全国住民消費価格(CPI)は+0・2%と、デフレに近い状態にある。1~11月の全国固定資産投資も+3・3%と、+10%以上が当たり前だった時代から縮小する一方だ。
そんな中で輸出だけが、足元の昨年11月分で、人民元換算で+5・8%、ドル換算で+6・7%と、好調をキープしている。それが、「トランプ関税」によって打撃を受ければ、中国経済にいよいよ黄信号が灯ることになる。
日本も当然、影響を受ける。トランプ政権から「アメリカ陣営への隷属」を強要されるだろうから、日中貿易は低迷していく。そしてそれに伴って、さらなるインフレ圧力が高まることになる。
■「今年は台湾危機は起こらない」
おしまいに、レポートは「台湾有事」に関する見解も述べている。少し長くなるが、引用する。
<台湾政策は差し迫った危機を引き起こしはしないが、決裂の一因となるだろう。ルビオやウォルツのようなタカ派は、台湾との関係強化を主張し、米国の軍事介入に関する「戦略的曖昧性」に異議を唱え、台湾に明確な安全保障上の保証を与えることを求めるだろう。たとえトランプ自身が台湾にあまり関心を示さなかったとしても、政権や議会は防衛協力の拡大を加速させ、中国の敏感な分野で台湾の制約を緩和しようとするだろう。米国の非対称防衛システム、軍事訓練、および台湾の頼清徳総統らの米国「通過」訪問に関する緩和が予想されるが、現状への直接的な挑戦は行われないだろう。
現時点で中国は、手の施しようのない分離主義者と見ている頼清徳を、圧力戦術で封じ込めていると判断している。頼の人気が高く、台湾経済が堅調である限り、台湾が現状を揺るがす可能性は低い。しかし米国や台湾が前例のない行動に出た場合、台湾の領海や領空の侵犯など中国側の強い反発を招くことになるだろう。
台湾が事実上の独立状態を強めるために大きな動きを見せたり、米国が「レッドライン」を超える行動を取ったと中国が判断した場合、例えば米国防長官が台湾を訪問したり、米海軍の艦船が寄港したりした場合、台湾の封鎖や離島の占領など軍事的なエスカレーションに発展する可能性がある。台湾の 2028 年の総統選が近づき、中国が頼再選を阻止するために圧力を強めれば、こうしたリスクが高まるだろう。平和的な「統一」が可能だというストーリーを維持することが難しくなる。
中国でも米国でも指導者が国内問題に集中しようとしているため、今年、危機を招くことはないだろう。習は深刻な経済問題、高まる社会不安、軍の混乱という難題に直面しており、これらの問題に対処する間は外部環境の安定を望むだろう。一方トランプは、自国の株式市場の暴落を引き起こすことに興味はなく、成果として誇示できる取引を望んでいる。上下両院を共和党が手にし、党の支配も強化されたことで、トランプはバイデンよりも有利な立場に立ち、一枚岩となって交渉に臨むことができる>
このように、とりあえず「台湾有事」は起こらないという見方だ。私も常々、「中国人民解放軍が台湾本島に武力侵攻することはない」と思っているので、レポートの見解と符合する。
以上、(3)の「米中決裂」についてのみ述べたが、全46ページを通読すると、世界は大変な時代を迎えたものだと、つくづく思う。巳年の今年、極東に横たわる日本は、ヘビのように注意深くくねくねと進んでいくしかないだろう。


 
どうやら今年も日本は自然災害と闘いながらトランプというもっと厄介な嵐に巻き込まれるかもしれない、とオジサンは思う。 

 

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