愛する犬と暮らす

この子たちに出逢えてよかった。

きみが心置きなく旅立てるようにぼくたちも強い心でいないとね

2012-02-02 22:16:23 | がんばれ、シェラ!

☆どんなひどい悪臭だってそれもきみのにおいなら
 底冷えのする一日だった。今日も昨日から続く冷たい風が吹いていた。これが東京の冬の正しい姿なのかもしれないが、シェラの命の灯火が消え入らんとするこのときだけに、心の中にも凍てつく風が吹きぬけていく。足がすくむほどに冷たい風である。

 昨日のシェラの下痢は、前日の注射が効いたらしく、幸い鳴りをひそめてくれた。だが、月曜日からの絶食状態は変わらず、シェラに食欲は戻ってこない。「もうしかたないよ」とぼくはあきらめているが、家人はなんとか少しでも食べさせようと、朝な夕なにウェットフードやシェラの好みそうな肉に火を通したりして用意し、手でシェラの口元に持っていく。においを嗅いではくれるものの、やっぱり横を向かれてしまう。
 
 シェラの吐く息の悪臭はますますきつくなり、家中がシェラの口臭で満ちている。シェラの身体の負担たるやどれほどのものかと思う尿毒素特有の悪臭である。その中でぼくたちは食事をし、眠りにつく。外から帰ると、玄関に立っただけでドアを開ける前からにおってくるほどだ。これさえもシェラのにおいだと思えばたちまち馴染めてしまう。
 
 毎日飲ませているステロイド剤をどうしたものかと家人が電話で病院へ訊いた。飲ませると嘔吐を誘引してしまうように思えたからである。すでにこの段階だからだろう、ステロイドの投与は中止することになった。
 それでも吐くようなら吐き気止めの薬を飲ませるようにいわれたそうだ。ほとんど食べていないのだから吐くものなんか何もなく、胃液を吐いたりしている。さぞや苦しかろう。
 
 家の中でもほとんど歩かなくなった。大半の時間を寝ている。たまに場所を移動するときによろけて歩くくらいである。昨日の朝は朝の散歩に連れ出し、オシッコだけはさせたが、体力の消耗が激しいようなので今朝はもうやめて寝かせておいた。


☆水まで飲めないのかと思ったら……
 足腰の衰えが進むとともに失禁がはじまった。同時に食欲ばかりか水さえ飲まなくなった。
 失禁といっても、シェラに明確な自覚はないと思う。もし、自覚があれば、尿意を催したときから外へ出たいと騒ぐはずだからだ。寝ていた場所から別の移動したとき、元の場所が濡れている。オシッコであり、もうひとつがヨダレの痕跡である。むろん、身体もオシッコで濡れてしまっている。
 
 これだけでもシェラがすでに次の段階に入ってしまったことがわかる。悲しんでいる余裕などない。われわれが強い心でシェラの旅立ちを見届けてやらなくてはならない。シェラが心置きなく死出の旅に発てるように……。
 
 脱水症が進めば、それだけ身体の苦痛も増すはずである。なんとか水を飲ませてやりたいと思うのだが、なぜか水の入った容器の前で見ているだけである。容器ごと鼻の先まで持っていっても飲もうとしない。
 この悩みは、夜、泊り込みでやってきたせがれが解決してくれた。彼はシェラを風呂場まで連れていき、水道の蛇口を開けたのである。流れ出る流水に、シェラはかぶりついて大量の水を飲んだという。外では好んでやりたがるシェラ流の水の飲み方だが、家でやったことなど一度もない。視覚に障害が起こり、容器の水が見えないのか、頼りの嗅覚が鈍ったためなのか、本当のところはわからないが、この方法で今朝も風呂場で大量の水を飲んだ。


☆深夜のわんこ用オムツ騒動
 昨夜、シェラが風呂場で水を飲んでいた午後11時ごろ、ぼくはクルマで町田駅に程近いディスカウントショップまでいっていた。それというのも、日曜日にシェラのために買っておいた紙オムツが単独では使えないことがわかったからである。オムツカバーとセットでないと装着できない。
 
 シェラの失禁対策としてオムツを使おうと出してみてはじめてカバーが必要だとわかったのが午後9時、カバーを置いてありそうな近所の大型スーパーが閉店する時刻だった。それから、家人となんとかならないかあれこれ知恵を絞ったが解決策が見つからないままあきらめかけていたとき、明け方までやっているディスカウントショップの存在を家人が思いついたのである。
 
 オムツカバーがあってくれと祈るように出かけたものの、その店では取り扱っていなかった。帰りかけたそのとき、人間の子供の紙オムツなりカバーなりをなんとか流用できないものかとひらめいた。孫もいない身なので、どんな商品があるのかさえわからぬまま売り場へいくと、目の前に数種類のパンツ型の紙おむつが並んでいた。
 犬と人間の子供とでは身体の形状が違うのだから多少の無理は承知である。問題はサイズだった。迷いつつ、そこにあるいちばん大きいサイズを買った。


☆おとなしくオムツをさせたシェラ
 家に戻り、ハサミでシッポ用の穴を開け、両サイドのきつく締まってしまいそうな部分を切り開いて、なんとかシェラに穿かせることができた。ふだんなら、こんな異物を身体にまとうのを嫌がり、あっという間に外してしまうだろうが、おとなしくつけたままでいる。そんなことも感じなくなってしまったのだろう。
 
 朝、ひと晩中穿いていたオムツを取り替えようと脱がせてみると、オシッコもウンコもやっていない。オムツをしたのでシェラが緊張して出さなかったのだろうか。それもまたシェラに訊いてみないとわからない。
 ひと晩中、寝ないでシェラを見守ってくれたせがれによると、今朝、また風呂場で水道の蛇口から水を大量に飲んだそうである。
 
 だが、シェラにオムツをさせることが、実はとんでもない間違いだったと今日の夜になるまでぼくも家人も気づかないでいた。よかれと思ってやったオムツだったが、シェラを苦しめてしまう結果になるなんて……。その顛末は明日また記すことにする。