☆あの日をさかいに食欲をなくしたルイ
気がつくと、まだ2月とはいえ、日差しはずいぶん春めいている。午後5時を過ぎても残照の空がひろがっていることにようやく気づいた。シェラにばかり目がいっているあいだに季節はずいぶん表情を変えてしまった。
今朝いちばんの用事はルイを連れての病院である。シェラとの別れの朝からルイの食欲がすっかり落ちている。先週の日曜日から月曜日にかけて、シェラの苦悶をともにした夜が明けたあと、ルイはまったく食事を摂らなかった。
そりゃそうだ、シェラの苦痛に呼応してルイもまたさんざん心を痛めて過ごした一夜である。食事が喉をとおらないのは不思議ではない。上の写真はシェラとの別れの朝であり、まったく食べようとしなかった。
だが、ルイの食欲不振は翌日も、その翌日も変わることなく週末を迎えた。昨日、土曜日の午後に病院へいって診てもらうつもりでいた。シェラの逝去に対し、病院からはお花とお悔やみの丁寧な手書きの手紙をいただいていた。
むぎのときもそうだったが、心からありがたいと思う。さんざんシェラがお世話になったお礼もかねてご挨拶にうかがうつもりでいた矢先だった。しかし、昨日が祭日の土曜日だというのをすっかり失念してしまっていた。
☆元気なのにごはんを食べない
シェラがいなくなるまでのルイは、成長期らしさそのままに食欲のかたまりのようなわんこだった。それがシェラが旅立つ直前から食欲を失ってしまったのである。当日はしかたないとしても、翌日からもドライフードを食器から外へ放り出し、それでも食べないのである。
与えているのはドライフードのみならず、ドライフードをお湯でふやかし、その上に日替わりでウェットフードをまぜていた。そのやわらかくなったのがいやなのかもしれないとドライフードを単独にしてみたり、ウエットフードだけにしてみたりと、あれこれ工夫するのだがさっぱり食べてくれない。
白米のご飯に鶏やら豚、牛とこれも日替わりでボイルしたのをまぜてやってようやく食べてくれるだけである。だからといって量は多くない。
ドライフードとウエットフードのミックスも家人が手で口元まで持っていってやればなんとか食べる。だが、食器からは決して食べようとしない。
それにもかかわらず、ウンコは正常だし、元気をなくしているわけでもない。遊んでやれば元気に跳ねまわる。健康上、どこといって悪いところは感じないのだが、木曜日になっても金曜日になっても、そして、土曜日もやっぱり食欲は復活しなかった。ただ、おやつだけはなんとか食べていた。
☆シェラからの遺言が重いのかい?
診察台のルイは先生のマスクをなめてたりして相変わらず活発だった。体重は10.78キログラム、平熱だし、やっぱりどこといって悪いところはない。先生の話によると、やっぱり相棒を失い、食欲をなくしてしまうわんこは珍しくないそうである。重症の子となるとまったく食べなくなってしまうという。人間のみならず、わんこにも「パートナー・ロス」はあるわけだ。
日常の表情からは読み取れないが、シェラの死がルイの心に深い傷となっていたのをあらためて知った。
もしかしたらそうかもしれないと思いつつ、ルイは、まだ生まれて7か月足らず、わが家の子となって4か月半でしかない。それを認める自信がなかった。だが、やっぱり、すでにシェラと心はひとつに重なっていたのである。
シェラにしても、自らの死期が近づいたのを悟ったのか、ルイのケージの前までやってきて寝ている姿を家人が何度か見ている。土曜日の夜、小一時間ふたりをだけで留守番をしてもらったときは、シェラがルイのケージの脇にきてふたりではりついていた。
コメントにもいただいたが、あの夜、ふたりのあいだでどんな会話がなされていたのだろうか? きょう、ぼくは病院で、本気で先生にそんな話をしていた。
「きっと、シェラからの遺言がかなりルイの負担になっているのでしょうね」と。
☆心からルイを愛してやったかと……
ルイの心の傷が癒えるまでにひと月くらいかかるかもしれないが、それまでどうやってルイの食欲を促したらいいかもこと細かにうかがった。今月に予定していた去勢手術もとりあえずしばらく見送ることになった。
ルイの心を癒すのは、「当たり前のことですが、ご家族の愛情しかありません」という先生の言葉が胸に刺さった。
シェラがいなくなったあと、ルイをケージから解放し、ぼくたちはせいいっぱいかわいがってきたつもりだった。しかし、ほんとうに愛情をかけてきてやったのだろうか。シェラを失った心の隙間を埋めるためだけにルイと接触してきたのではないだろうか。
ぼくたちは、きょう一日、心をこめてルイと過ごした。一緒に遊び、散歩をして夕方、家に戻った。買い物のときだけはクルマにルイを残したが、それでもルイに心をかけてきた。
今夜のルイの夕食は、病院で教わった「特別食」ではなく、試しにいままでどおりのドライにウエットをまぶしたものを出してみた。
完食してくれた。
これでようやくシェラへ面目がたつ。