今回は、「総赤絵 蓋付碗」の紹介です。
立面
蓋のツマミ部分が上に行くにしたがって広く作られています。
そのため、蓋を持ち上げる時に蓋が滑り落ちません。
蓋を外したところ
本体を伏せ、蓋を裏返したところ
本体の見込面
本体の裏面
蓋の表面
蓋の裏面
本体の裏面 蓋の表面
本体の高台の内側と蓋のツマミ部分の内側は、2段に削られ、段差があります。
どうしてそのようなことをしたのかは分かりません。
生 産 地 : 肥前・有田
製作年代: 江戸時代中期
サ イ ズ : 口径;11.7cm 高さ(蓋共);7.8cm 底径;4.9cm
なお、この「総赤絵 蓋付碗」につきましても、かつての拙ホームページの「古伊万里への誘い」の中でも既に紹介しているところです。
次に、その時の紹介文を再度掲載いたしますので、この「総赤絵 蓋付碗」の紹介としてお読みいただければ幸いです。
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<古伊万里への誘い>
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*古伊万里ギャラリー94 古伊万里様式総赤絵蓋付碗 (平成18年1月1日登載)
磁器で、一色だけのもので有名なものには、青磁、白磁がある。既に中国の宋の時代には最高レベルにまで達し、高い完成度を誇っている。また、気品に満ち、品格と格調の高さをも示している。
また、磁器で、青磁、白磁以外で、一色だけにしたものというのでは、銹釉、瑠璃釉などがあるだろう。
ところで、有田では昔から、色絵のことを「色絵」とは言わないで「赤絵」というようだ。だったら、古伊万里に、赤一色だけにしたものがあってもよさそうである。
でも、私は、これまで、この蓋付碗を見るまでは、こんなものがあるとは知らなかったし、また、こんな赤一色だけのものがあってしかるべきだとも思わなかったのだから、この蓋付碗との出会いは衝撃的であった。
この蓋付碗は、ある意味、私を開眼させてくれたのである。「古伊万里の世界は広く、深い!」と。
ここで、ちょっと脱線であるが、英語で、磁器のことをチャイナと呼び、漆器のことをジャパンと呼ぶそうである。これまたウカツだったのだが、これまでに調べて確認したことがなかったので、今回、重い腰をあげて英語の辞書を開いてみた。
頭文字が大文字の「China」は「中国」であるが、頭文字が小文字の「china」は「磁器」と書いてあった。また、頭文字が大文字の「Japan」は「日本」であるが、頭文字が小文字の「japan」は「漆器」と書かれていた。
そう、「漆器」は、世界に通用する日本の代表的な工芸品なのである。ちょっと見渡しても、「漆器」の中には、この蓋付碗のようなものはゴロゴロと存在しているではないか。
だったら、この蓋付碗のように、世界に通用する「漆器」をそっくり写した古伊万里が存在してもおかしくはないであろう。そのように考えると、この蓋付碗が特別な存在には思えなくなってくる。「単に、漆器を写したにすぎないんじゃないの・・・」と。
でも、どうしてこのような蓋付碗は少ないのだろう。漆器の蓋付碗に比して、割れ易く、かつ高額になってしまったので普及しなかったのであろうか?
また、「赤絵」というのに、赤一色にした古伊万里がどうして少ないのだろうか?
追記:この蓋付碗は、なかなか良く出来ている。「良い仕事をしている。」のである。
第一に、蓋と本体との合わせ目がピッタリしている。普通、蓋付碗は、蓋をした時に本体にぴたりと合わさらず、ちょっとガタツクのだが、この蓋付碗にはそれがない。吸い付くように合わさるのだ。
第二に、造形が細かい所までに行き届いている。高台の内側(蓋のつまみ部分の内側もそうであるが。)が二段に削られているのである。もっとも、私には、なぜそのようにしたのかの理由がわからないが。
更に、蓋を持ったときにずり落ちないように、蓋のつまみ部分が、しっかりと、上に行くに従って広がっている。
第三に、底の方が厚く、口の方に行くに従って薄くなっていて、ロクロの技がシャープである。さながら、鍋島のような見事なロクロさばきである。
江戸時代中期 口径:11.7cm 高さ:7.8cm 底径:4.9cm
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*古伊万里バカ日誌33 古伊万里との対話(総赤絵の蓋付碗)(平成18年1月1日登載)(平成17年12月筆)
登場人物
主 人 (田舎の平凡なサラリーマン)
陽 子 (古伊万里様式総赤絵蓋付碗)
・・・・・プロローグ・・・・・
主人は、ここのところ、ず~っと前に購入したもの達との対話が続いているので、たまには最近手に入れたものとも対話をしてみたくなったようである。
ちょっと前の平成17年の暮れに、平成17年の骨董納めの形で手に入れた蓋付碗と対話することをまっ先に思い浮かべたが、それではあまりにも最近の入手品との対話であり、生臭い感じがするので一度は思いとどまった。でも、この対話が元旦になされることを思い、この蓋付碗が初日の出を思わせるので、ちょうど良いタイミングではないのかと、考えを改めた。
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主人:新年おめでとう。
陽子:おめでとうございます。早々に対話をしていただき、ありがとうございます。
主人:お前は、真っ赤に燃えた太陽のようだネ! お前を見た瞬間、「真っ赤に燃えた~太陽だから~♪」の美空ひばりの「真っ赤な太陽」を連想したよ。もっとも、この歌に出てくる太陽は真夏の海の太陽のことを言ってるんだろうけど、初日の出の太陽のようにも連想できるしね。ちょうどお正月にはふさわしいと思って出てもらった。
陽子:お褒めにあずかり、ありがとうございます。
ところで、ご主人様は、先日、私を入手されるに当たって苦労されておりましたね。
主人:そうなんだ。あるセリ市で入手したんだが、厳密に言うと、競り落としたんではなく、定価通りで買ったんだよね。
陽子:それはどういうことなんですか。
主人:うん。お前がセリに出されたんだが、発句が安かった。それで、即座に「倍」と値を付けた。でも、どうも反応がない。それで、更に「その倍」と値を上げたんだけど落ちなかった。その後も値上げしていったんだけれども決着がつかなかった。そのうち、誰も追う者はなくなり、出品者は、「そんなに安い値段では売れません。○○円以下では絶対に売りません。」と、お前を引っ込めにかかった。
私はプロではないから、他のセリ市でのルールを知らないんだけれど、そのセリ市では、出品者が売りたくなければ引っ込めることができるんだ。
それで、私もシャクにさわって、「そんなに高くてはバンザイです。」と応酬した。ところが、周辺から、「○○さん、そんな物はめったに出ないから買っておいた方がいいよ。」とか、「そうだ、そうだ。せっかくそこまで追っていったんだから買っといた方がいいよ。」との無責任な声援(?)が飛んできた。
私としても、「珍しいものだな~。初めて見たな~。めったに出て来ないだろうな~。」と思っていたので、「もう少し安くなるなら買っておこうか。」と考え直したわけだ。
そこで、私は、今度は、直接、出品者に値引交渉に出た。公開の席での値引交渉なわけだ。セリ市でセリそっちのけでの値引交渉になったわけだね。そんなことが出来るのも、そもそも、このセリ市がプロによる正式なセリ市ではないからだけれどね。
最初は軽い気持でやっていて、周辺の者も、「年末なんだからサービスしてやりなよ!」なんて援護してくれていたんだが、出品者はだんだんと固い表情になってきて、「絶対に○○円以下では売りません。」と意固地になってきた。
だいたい、骨董屋だとか骨董品が好きだとかいう連中は、私も含めてだが、偏屈な者が多くて、ちょっとしたことで意固地になり易い。ヘソが曲がってしまったらもうおしまいだ。そしたら、今度は、○○円以上になっても決して売らなくなるだろう。
私も、当初はのんびりと値引交渉そのものを楽しんでいたりしたんだが、そのうち、どうしてもお前を手に入れたいと思うようになってきた。少しばかりの値段の差でお前を失ってはならないと思うようになってきた。それで、「わかりました、○○円で買いましょう!」と断言し、交渉は成立した。出品者のヘソが曲がる直前で間一髪だったね。
めでたく交渉成立ということで、一同が手締めをしてくれた。
このセリ市での手締めは、「シャンシャンシャン シャンシャンシャン シャンシャンシャン シャン」とやるんだ。「シャン」を10回するわけだね。「シャンシャンシャン」で3回だろう、それを3回だから「九」になるだろう。最後に「シャン」を一つ「チョン」とおまけみたいにするわけだ。するとどうだ、「九」に「チョン」で「丸」になるだろう。一座が「丸」く納まるというわけだね。
陽子:そうですか、そんな事情があったんですか。
それにしましても、一座が「丸」く納まるようにという手締めは面白いですね。
主人:そうなんだ。手締めにも意味があるし、いろんなのがあるようだね。たとえば、カツオ船の上での手締めなんかは、忙しいから「シャン」を1回だけらしいね。さしずめ「高知一本締め」というところだろうか。昨今、宴会の中締めで、「関東一本締め」ということで、「シャン」を1回しかやらないようだけど、これは著作権侵害(?)じゃないだろうかね。「関東一本締め」は、関東一円が丸く納まるようにということで、是非、「シャン」を10回してほしいものだね。
おっと、随分と脱線してしまった。
ところで、お前をセリ市で定価通りで買ったわけだが、今でも、「高く買いすぎたかな~。失敗したな~。」とは思ってないよ。中にはあるんだよね。買った後になって、「高く買っちゃったな~。失敗したな~。」と思うことがね。
お前は、見れば見るほど良く見えるな。飯茶碗の中では一級品だね。
陽子:ありがとうございます。
主人:うん、うん。お正月だものね。せめて元旦ぐらいは楽しい会話がしたいものね。今日はそれが出来てよかったよ。
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