あの大きくて四角い顔が、大きくて四角いスクリーンに映るだけで胸がじわ~んと熱くなってきました。やっぱりね、映画はスクリーンで見る方がいい。寅さんも映画館で見る方がいい。可笑しな場面では場内の人たちと一緒に笑える。クスクス、げらげら。
正直、作品自体に期待は全くしていませんでした。だって”主役不在”ですから。これは誰もが知っている事実ですからね。公開前の宣伝では、甥っ子の満男を始めとした登場人物が寅さんを回想しながら、かつてのシーンが流れるとのことだったので、見る者にとっては最もわかりやすくて、”今でも旅を続けている”寅さんの存在を知らせる最適な方法だなと思っていました。

それなりに楽しめました。老いた博&さくら夫婦、シングルファザーになった満男、かつての恋人の泉、その母親の礼子、寅さんの舎弟分の源公、タコ社長の娘のあけみ、くるまや従業員の三平、寅さんの”恋人”リリー。あぁ、みんな元気なんだな~って。 「先代の後を引き継ぎまして・・・」とのセリフと共に登場した2代目御前様。演じたのは寅さんシリーズに様々な役でレギュラー的に登場していた笹野高史。このキャスティングには思わずニヤリ。嬉しかったな。
おいちゃんもおばちゃんもタコ社長も旅立たれていたけど、そりゃぁ前作から20年以上も経っているんだもんね。鬼籍に入られてもおかしくはない。それでも過去の場面にはみんなの元気な姿が見られるし、おいちゃんに関しては演じた3人の歴代俳優(森川信、松村達雄、下條正巳)がちゃ~んと登場しているし、満男にしても赤ん坊時代の中村はやともいたし、歴代マドンナも、まるでイタリア映画の「ニューシネマパラダイス」ラストを彷彿させるようにど~~ん!といっぺんに登場している。くるまやはカフェに衣替えしていたけど、向かいの煎餅屋は同じ江戸家だったし、くるまやのモデルと言われている高木屋団子舗もしっかりと出ていたし、もはや「お帰り寅さん」ではなく「お祭り寅さん」って感じです。
でもこれだけオリジナルキャストが出てきたのに、残念だったのがひとつ。病床に伏せている泉の父親役が橋爪功⁉ オリジナルでは寺尾聡だったのに・・・。死期が迫っている、それでもダンディな父親が別れた妻や娘と最期にどんな会話を交わすのか。その瞬間までドキドキしていました・・・が、残念。しかも橋爪功の面白さを引き出すようなコメディ演出。泉の父親じゃない!ぶっ飛んだ礼子が愛した旦那じゃない!山田監督はどんな思いでこのシーンを演出したんだ? 寺尾聡が出演できず、”山田ファミリー”の橋爪功が代役で出るのは良しとしても、あの満男をおちょくるような演出は「泉の父親像」を根本から覆してしまい、かなりがっかりしました。寅さんファンも茫然としたのでは?
それと、オープニングの歌を歌った桑田佳祐。主題歌を歌うのはいいんだけども、桑田本人が登場しちゃってる。「男はつらいよ」は彼のMVやPVじゃないんだからね(しかもバックの青空はCG処理)。まぁ、監督の好みなんだから仕方ないか。ラストに渥美清本人が歌う主題歌が流れてきたから、溜飲が下がる思いだったけど。
あとひとつ。あえて・・・あえてひとつ注文するならば。寅さんがカバンを持って歩いて来て、源公が転げまわり、博が草野球をして、さくらが自転車で通ったあの土手。江戸川の土手を映し出すシーンが欲しかったなぁ。
劇中、さくらが「お兄ちゃんがいつ帰って来るかわからないから」と言っていたので、寅さんはまだ全国を旅しているんですよね。寅さんと「男はつらいよ」を大好きな私たちの心をゆっくりと歩き渡っているんです。

50作記念に何か本が欲しいなと思って購入した一冊。旅をする寅さんを鉄道という側面から特集しています。

ひさしぶりに柴又に行ってみるかな。ひょっこりと寅さんに会ったりして