25時間目  日々を哲学する

著者 本木周一 小説、詩、音楽 映画、ドラマ、経済、日々を哲学する

麦の穂を揺らす風

2018年12月29日 | 映画
 年末になると息子がDVD映画をもってくる。知らないものばかりである。昨日は北アイルランドのIRAが大英帝国と休戦、和解するグループとそれに反対して徹底的に闘う道を選らぶグループに分かれる中で、兄弟が分断される結末を描いている。「麦の穂を揺らす風」、ケン・ローチ監督の作品だ。

 今年はアクション映画、SF映画を観まくって、さらにキリスト教に関する映画を観まくった。それで、少々映画に食傷気味である。今年観た映画では、「ライオン」「スリー ビルボード」がよかった。スリービルボードの闘う女主人公の意志の強さには、日本人の女性にはみられない雰囲気がある。「キャー」と叫びそうもないし、涙も流しそうにない。警察署を爆破してしまう説得力もある。決然と一人で町の警察権力と闘うのである。

 目の前に不条理だと思うことがあれば、どうするだろうと考えてみる。ぼくにはまだ決定的な不条理を突きつけられた経験はない。チマチマした不条理はいくつかあったが、それで爆破までしてしまうものでもない。公民館で「情報化時代」についてウチの会社と電々公社(NTTになる前だった)と共同でセミナーを開いたのだった。すると地元新聞が反応して、トップ面の大きな活字で、「民間会社が公民館を使用」と書いた。いまでは民間会社でも公民館は使えるが、民間使用はダメなはずだと書き述べるのだった。

 翌日はさらにコラムでぼくの名前を出し、榎本健一ならぬ榎本順一とは何者かと批判された。kっちはただ電々公社との共同主催で「いよいよ情報化時代が始まるよ」と言いたいだけで、公社も組織体制を変えて、光ファイバー網の敷設にとりかかったころだった。まだインターネットは登場してなく、ウインドウズが出る10年ほど前のことだった。何ら悪いことをしてもいないのに、批判的だった。反論を掲載させろ、と言って、掲載させた。すると今度は大学の教授をしていて引退した社主が論説で取り上げ、「こんな分野にまで手を出すな。塾をやっていろ」と書いてきた。

 どうやら、当時ぼくらがだした「週刊の情報発信新聞 1192 紀州」という青色印字の新聞を出し、「FMマイタウン」まで始めたので、気に入らなかったのだろう。当時の人口は3万人を越していた。
 今、人口わずか17000人の尾鷲に2社の地元新聞がある。市政の動き、さまざまな行事を伝えているが、死亡記事欄が一番の購読動機のように思う。不義理をしてはいけないと思うにだろう。通夜、葬式の日程もここに載る。

 ぼくは、死んでもここには載せないし、他紙にも載せない。通夜も葬式も要らない。ぼくは仏教徒ではないし、人が普通にしておくことをしなかったら奇妙に思われると思う質でもない。天国があるとも、地獄があるとも思っていない。
 この地元新聞社には腹が立ったが、爆破するほどでもなかった。

 映画「スリービルボード」でしびれるのは意志ある女がやるからだ。これが男主人公だったら、「グラントリノ」のような手法となるのだろう。逆にグラントリノの役をスリービルボードの女性はできない。男と女は醸し出す雰囲気が違うということだ。

 ところで、息子が持ってきたあと四枚のDVDは、「素敵なダイヤモンドスキャンダル」「ウインドリバー」「聖なる鹿殺し」「イカリエ-XB1」であった。どれも見てない。