ソロツーリストの旅ログ

あるいはライダーへのアンチテーゼ

振り返ってみるとオートバイがいちばん好きだった

秋は忍び寄る (赤とんぼどもに挑まれる終わりなきチキンレース)

2021年08月25日 | R100Trad (1990) クロ介
お盆の間中、雨に降られてオートバイ野郎どもは

しなびた菜っ葉みたいになっちまってたのだろう

ボクぐらいの年季が入ると

それほど気も逸らない

雨の日には雨の中を

いやなら、のんびりしてれば良い


にしても激しくてしつこい雨の日々だったね

いつもならお盆のころになると山から下りてきてる赤とんぼども

今年はこの雨のせいか、まだ目にしてなかった


今週は土曜にようやく晴れ間が見えたので

いつもの散歩コースへクロ介を走らせる



山水(やまみず=雨の後、山から湧き出る水をボクの住む山家ではそういう)が道路にあふれ

足はビタビタになるけど

山影も相まってとても涼しい

落ち葉、落ち枝、こけ、土砂、やまみず

少し気を遣うコンディション

でも、それくらいが集中して走れる



オートバイライディングに最も重要なことは過信せず集中すること

なんてな

どうでもいいや、好きに乗れ


「涼風の里」は作手の高原

夏でも爽やかなことが多いが

夏の終わりのこの頃は

そろそろ秋が忍び寄る



大きな桜の木は葉が色づき落葉するものもある

今年も季節を折り返し、秋へ、そして冬へ向かう



心なしか、山の色にも、あたりの空気にも

なんとなく褪せた色を感じるのは気のせいか

夏の終わりはホッとする気分とざわつくような気持のアンビバレント


ここから先の県道がずっと通行止めなので

来た道を戻って国道301号をいく

少し開けた山村を快走路で抜ける

出た!

出た、出た、赤とんぼども!

風を切り裂く先に次から次へとチキンレースを挑んでくる

すごいギリギリまで向かってくるやつに一瞬こっちが引きそうになる

いや、ダメだ

おまいさんたちには負けんぜ

……!……!

すごい来るな、こいつら

(ていうか、すごい動体視力、すごい反射神経、すごい運動能力で彼らは絶対ぶつからんけどね)

いい人はいいね

2021年08月18日 | R100Trad (1990) クロ介


タイル張りのモダンな外壁

間口が4間ほどもある立派な構え

酒屋さんだと思うけど食品も雑貨も扱う所謂「よろずや」だ

むかしはこのスタイルの「よろずや」が集落に一つはあった

元の店が裏手に今も残るが

そちらもなかなかどうして立派な佇まいで

長い間、このあたりの生活を支えた核店舗だったのだろう

うちの近所にある「よろずや」と同じ「朝日屋」の屋号

ボクの近所の朝日屋さんが親しみをこめて「熊ジィさん」と呼ばれていたとおり

この朝日屋さんもきっと愛称があったんじゃァないかな

もう何年も前からシャッターが開かなくなっちまったけど

ここを通りかかるたびに店の前にオートバイを止めて

夏でも冬でもホットの缶コーヒーで一服(夏でもホットの設定があるのよ)

店のひさしが無くなってからは

勝手に横手のスペースにオートバイを乗り入れて

建物でできた日陰でのんびりさせてもらう



隣は酒屋のおかあさんの畑

草をむしったり、水をまいたりするおかあさん

夏の季節ならダリヤの花や大きく茂ったミニトマト

目が合うとどちらからともなく会釈する

お店が開いてた時はアイスクリーム買うときとかに何度か言葉を交わしたことがあるが

むさくるしいおっさんに声かけられても迷惑かなとも思うので

話しかけるのはちょっと遠慮していた

その日はとても暑くて、目が合った時に自然に声が出た

「まだ、毎日暑いですね」と

おかあさんは人懐こそうな笑顔で

「バイクは涼しいでしょ」という

「いいえね、案外暑いんですよ」

「そう?涼しそうに見えるけどねー」と顔いっぱいの笑みを返してくれる

畑が楽しみだが、このところの暑さで熱中症が心配だと息子さんに畑仕事を止められているそうだ

しかも何度もうるさくキツイ言い方をされるのでちょっと不満気だ

でもね、わかるんだよねその気持ち

ボクのおふくろはもう20年以上前に亡くなったんだけど

生きてるときはくだらないことが苦になって、しょっちゅうおふくろに怒ってた

でも、それはおふくろを心配してるからこそなんだけど

ほんとうになんであんなに怒ってばかりいたのか

今はわかる

心配してるなら、優しい言葉をかけなきゃ

死なれた後に気付いても、もうどうしようもないんだね

感謝し、心配してるなら、素直にそう云うべきなんだよ

「孝行したいとき親はなし」

ベタなこんな格言が残された息子にギューッとのしかかる

だから、おふくろくらいの年頃のお母さん見ると

関係ないのに優しい言葉をかけたくなる

せめてもの罪滅ぼしだ

お父さんは身体が良くなくて少し離れた施設にいるそうだ

きっとこの山の景色が恋しいだろうね

いい人たち

いい人はいいね

伊豆の踊子の少女のように、思った

いい人はいいね

いい人にいい人生を……



いい人になりたい

無理か

右足シフトをまのあたりにする

2021年08月11日 | R100Trad (1990) クロ介
いつ預けたんだっけか?

真っ黄色だったモトコのシートを塗りに出したのは・・・

頼みに行ったときに

7月の終わりかな・・・そのころに一回様子見に来て、と大将

云われたとおりに見に行くと、果たしてまだまっ黄色のままのカウルが壁にぶら下がっとった(三河弁)

7月は無理やな。盆かな。いやいや、夏、乗る?

はははは、と互いに乾いた笑いでやり過ごす

いい店だ

でも、結局翌週末には連絡が来た、できました、と



モノサスの純正シートってかっちりしてて今風だ

二本サス時代のシートはふかふかで気持ちよかった

かっちりしてる方が確かに疲れが少ないんだけど

真四角の断面と相まって案外足つきが厳しい

まあ、停まってる時だけしか足付かないからそれはいいんだけど

実は足が短いのか、乗ってる時にもステップが遠くて微妙につらいのだよ

モトコのシートはふかふかで乗り心地が良く

着座位置が少し低い

ステップとシートの間隔が詰まって膝の曲がりが強い

モトコさん、日本人に最適化してるのか

これを付けるとテールが「シュん」として、「こいつやるんかな」感がでる

かっこよす



にしても、暑い

が、夏が暑くて何が悪いかと思う

子供のころ、アメリカでは暑すぎて人が死んでるってニュースで聞いて

暑くて人が死ぬっていう意味が分からなかったけど

この頃は日本人も暑くてやられる

昔とは暑さのレベルが違うとかいう奴いるけど

愛知県では1942年に39.9℃

日本の記録では山形県で1933年に40.8℃

昔だって日本も暑かったのよ



とか云いながら朝早くに走りに出て、すぐ帰ってくるこの頃

走るのも、森の日陰を行く道



高く伸びた杉の林の中を川と道がクネクネと下る

ここをゆっくり下って行く時いつもラビットコースターを思い出す



「ラビットコースター」っていうのは彼の任天堂が出していたおもちゃで

子供のころ大好きだった

薬のカプセルみたいな中に球が入っていて

細いコースを下らせるとぴょこぴょこと進んでいくゲームなんだけど

50年以上前の記憶や光景がオーバーラップする

人って妙な生き物だな



誰かがなんかの目的で作った立派な石垣のスロープはもう今は誰も通らない

百合かスゲか

その思わぬ美しさにしばらくオートバイを止めて見入ってしまった



お気に入りの休憩ポイントで缶コーヒー

酒屋のお母さんが畑仕事するのをぼんやり拝見

真っ青な夏空に台風が連れてきた高積雲

蝉しぐれ

ああ、日本の夏だ

死ぬ間際にこの景色を思い出したい、とふと思った

心に残るのは壮大な景色でなく、こんな夏の景色

どこかの名物や老舗料亭の味でなく、おかあさんの親子丼

60年近く生きてやっと気づく

いや、60年かかるのが人という生き物なのだろう



ふと弾けるような排気音がして一台のオートバイが入ってきた

ここを知ってるなんて相当「通」だな、なんて思ってたら

W1スペシャル

しかもナンバーが古い

すらりとしたオートバイ乗りは上から下までスキのないウェア

いやみでなく素直にめちゃくちゃかっこええ

女が惚れるおとこ

「ブログみてますよ」とパンチを喰らい

「本性見られた」と頭を撫でる

RのサイドカーとKの写真を見せてくれた

それよりもW1が気になる

写真撮らせてもらえばよかった




煙草を一服した後、先にW1にまたがっておもむろにキック

バーチカルツインは迫力の破裂音を上げて始動する

その次の刹那

彼は自然なしぐさで、本当に自然に

右足のペダルを踏みこんだ

ガポン(カワサキのギア、こんな音)とローギアに入り

W1スペシャルは発進した

!!!!!!!!!!!!!!

かっこよす!

同じ時間を生きて、彼が辿りついた境地

ボクはあと何年生きればそこに行けるのか

まだ、死ねないな

うらやましいほどだ、女にもてるだろうな