ソロツーリストの旅ログ

あるいはライダーへのアンチテーゼ

振り返ってみるとオートバイがいちばん好きだった

彼はあの時確かに手に持つ白い旗でボクに通るよう促した

2023年09月29日 | R100Trad (1990) クロ介


彼岸の声を聞いた途端に

秋はにわかに姿を見せた

曼殊沙華は今年も示し合わせて花を開き

里には少し頼りなげな風が吹き始めた

読書の秋なんて言われなくとも

ことさら読書に励みたくなるような気候だ



天気が安定してきたので遠乗りしてきた

大好きなクネクネ道を走る

新東名 静岡SA

平日の午前8時なのになぜか2輪駐車スペースは一杯だ

「今日はすっきりしない天気」と

お天気お姉さんは云っていたけど

なかなかどうしてカラッと晴れ渡る光長閑けき秋の空だ

中に来ていたロングTシャツを脱いで

スマートICから下へ降りる



安部川の支流の藁科川をたどっていく

今日走る静岡県県道60号線はその源流まで続いている

「南アルプス公園線」などと旅情を掻き立てる名前が付けられているけど

その実、かなりの悪路

ちょっと覚悟がいる

いくつもの山筋を乗り越えながらゆるゆると進み

井川ダムに出る予定だ

昨夜、JARTICのホームページで通行止めを確認したつもりだけど

国道との分岐点ではすでに

「大間-笠張峠 崩土通行止」の掲示があった

マジか、と半信半疑で進むが

長年、山の中を走ってきた身としては

なんとなく雰囲気でわかるのだ

行けそうか

行けなさそうか

今日は「行けそう」が濃いと踏んでいた

JARTICに出てないのに、そりゃないぜ、なので

きっと行ける





途中、大川の集落くらいまでは家も多くて道も良い

それにこのあたりの道路は沿って流れる川の行く手に任せた作りで

文字どおり自然な曲線のカーブが続いて旋回していて本当に楽しい

ゆったりとリーンするとそれに合わせてゆっくり旋回力が強まり

そこからスロットルを入れてやるとキレイにラインが繋がる

それが左へ右へと交互に繰り返す

その間にも何度か「通行止」の予告が出て

その度このジジィの気分を滅入らせるが

なーに、心配御無用さ

ダメなら来た道を戻ればよい、それだけのことだ

林道を使った回り道なんかがあるかもしれないしね



湯ノ島温泉を境についに人家が途絶える

茶畑の間を通り抜けるうち県道はグッと幅員を詰める

そしてすぐに

「大橋」というにはちょっと小さい「湯ノ島大橋」にさしかかる

県道はこの橋で川を横切り山へと入っていくが

その橋の入口で門番さながら交通整理員が眼光鋭くこっちを睨みつけていた

しかも3分の2くらいが柵で塞がれている

けれどその右側が少し開いていたのでウインカーを出してみたら

交通整理員が「行くのか?」みたいなジェスチャーをしてきた

反射的に頷くと彼は持っていた白い旗を振って

その切れ目から中へ入るよう促してきた

やったー!やっぱ行けるんじゃん

と喜んでそそくさと橋を渡った

「行けるんすか?」みたいな野暮な確認は無しだ

けれど踏み込んだ途端に道はそのヤバさを10倍にして返してきた

VIVANTも終わったというのに

半沢直樹の再放送も微妙なこの時期だというのに

ここで「10倍返し」を喰らうとはー!

などと楽しすぎてつい仕様も無いことを考えてしまいながら

さらに慎重に進んでいく





この先はいつもの険しいクネクネ道が続く

しかし、この前ここを走ったのはいつだったか

多分もう10年は経っている

調べてみたら正確には2011年の4月だった

前はツインショックのR100RSだったけど

路面の荒れが記憶にないのでそれほどでもなかったに違いないが

今日は本当にひどく荒れていてかなり神経を使う

舗装が崩れて段差になったりウネったりした箇所や

舗装が取れてしまって下の路盤がむき出しになっている箇所など

補修が追い付かずに荒れ放題だ

車重が200kgを越えるオンロード車で走るところじゃない

シートにどっしり座ってるなんて無理で

両ステップに体重を乗せて

ハンドルでバランスをとるオフロードのような走りがいる

だからつまり

楽しくて仕方なかったって訳だ

フラットツインの縦置きクランクや

低い回転でも粘るエンジンの性格がとても頼もしい

大きな段差でのパンクにだけ気をつけていれば全く問題ない

この先も何度か「通行止」の看板と細かい工事箇所に会いながら

結局、県道189号線の交点「笠張峠」まで抜けてしまった

ほらね、行けた





長い吊り橋の井川大橋が工事通行止めだったので

そのまま井川五郎ダムへ直接下りて

その後大井川に沿って南下する

途中、長島ダムで休憩



木陰でゆっくりしてたらアプト式レールを上るトロッコ列車がやってきた

大げさな補助機関車が付いてる割に超低速

視界の端から端までを這うように横切って行った

そのあと塩郷辺りでは新しく入ったC10の力走も見られた

動画撮りたかったな

黒い煙をドバドバ吐き出して力強かった、カッコよかったね

我がクロ介(R100TRAD改)は久しぶりの遠出にもノントラブル

新東名を120km/h+αで巡行させたけど燃費は20km/lいっていた



とにかく今日はずっと天気が良くて気持ちよかった

気温は上がっても木陰はのんびり涼しくて

いい一日だった

やっぱオートバイで走るのは楽しいな



補足

帰った後、念のためJARTICで県道60号線の状況を確認したらば

湯ノ島辺りと大間―笠張間で通行止!と出ていたよ

すごいな、オレ

なんで通してくれたのかな?

いやいや、誓って突破なんてしてないですから

そぞろ神のモノにつきて心ソワソワ

2023年09月14日 | R100Trad (1990) クロ介


秋風が吹き始めるころ

ツバメたちには南へ帰る日が近づいてくる

忙しく飛び回っては小虫を一杯に頬張る

しっかり食べて蓄えておかないと厳しい長旅に耐えられないのだ

そして、いよいよ、という日になると決まって

みんな揃って別れの挨拶にやってくる

何をイタいこと云ってやがるのかと思う向きもあるかもしれないが

毎日外の様子を眺めていれば自然とそれに気づくのだ

ふと足元を見ればそこには萩のかわいらしい赤紫の花

伸び放題の草むらからは虫の音

稲刈りが終わりひこばえが伸びる田んぼ

示し合わせたかのように落葉を始めた川沿いの桜並木

みんなが教えてくれる

――もう秋だよ、と

どんなに強烈な夏だったとしても

地球が回れば必ず秋になる



電線に並んで止まって、風を読むツバメたち

「気をつけて、そしてまた春に会おう」

ボクは心の中で彼らに別れを告げツバメたちを見送る



今年は何処に行こうかな?

いつもこの頃になると考える

「今年は」というのは「今年の秋は」という意味だ

もちろん春夏秋冬それぞれの季節に

それぞれの良さがあることは理解しているけど

やはり一番は秋だね

大平峠の落葉が降り積もる街道

鈴蘭スカイラインの終わりのない広葉樹の林

晩秋の時雨に濡れそぼる奥琵琶湖の里

思い返すだけで

松島の月を想ってそわそわしていた芭蕉のような気分になる





このごろは山間部も主要道路はことごとく改良が進んだ

地域の主要インフラとしての道路を災害から守ることは

当然プライオリティの高い課題だろう

利己的な見方であえて云わせてもらうけど

正直少し寂しいなと思っているのは確かだ

ひねくれた意見をあえて云いたい訳ではない

ただ

先日走ってきた気田川沿いの静岡県県道389号線のようなルートが好きなのだ

もうそれは「トレール」と云ってもいいかもしれない

確かに危険で、維持するために人手も金も時間もかかるのだろう

けれど

砂や砂利が積もり

落ちた木々の枝が散らばり

鬱蒼とした森や林の中を

我が物顔で蛇行する急流の渓谷の際を

直線ともカーブとも云えない有機的な線形で道は進む

そんな中を黙々と淡々と時間も忘れて走ることが好きだ



今のボクの相棒 BMW R100(改RS)

空冷の水平対向エンジンを

オーソドックスなダブルクレードルフレームに乗せた

とても基本的なスタイルのオートバイだ

いや、今となっては基本的というよりオールドファッションか

でもアウトバーンの国で生まれた高速ツアラーだった

今だって高速道路は大の得意で

それはまさに水を得たサカナのような走りだ

とは云えR100RSはあの大きなフロントカウルと

幅60cmのベリーショートなハンドルでとても不整地には向いていない

少なくとも見かけ上はね

それでも縦置きのクランクの安定感と

フラットツインの低重心が作り出す走行感覚は

とても個性的で魅力的

もともと大戦中は側車を付けて砂漠を走るようなオートバイだったから

オフロードとの相性は良いようで

現在ではBMWフラットツインと云えば

「GS」というくらいオフロードのイメージだ

だからこの極東の狭い島国の林道上がりの県道は大得意で

このR100RSが日本人に大人気だった理由が

そんなところにもあるように感じる



それに加えてタイヤの進化も大きい

いま履いているミシュランパイロットクラシックは

非常に高いパフォーマンスで

基本設計が30年以上前のオートバイの走りを

見事にアップデートしてくれている

それでいて必要以上にタイヤの性能が突出することもなく

トータルバランスとして走りを支えてくれていることにも好感が持てる



さて今年の秋は、どこへ行こうか

藁科川に沿って南アルプス公園線(静岡県県道60号線)を辿ろうか

紅葉の頃に木曾路から奈川へ抜けその後旧道で安房峠を越えようか

落葉し喧騒の過ぎた初冬のせせらぎ街道へは今年も行きたいな

でも筋違いの岐阜県県道98号線か453号線もいいかな

(調べてみたら県道453号線は無期限の通行止め告知されていた)

噴火があってから足を向けるのを控えてきた御嶽もいいか

ついこないだと思っていたら噴火は2014年だった

もう10年位経つ

ボク自身が田ノ原へ最後に行ったのは調べてみたら2012年のことだった

久しぶりに行ってみようか



そぞろ神の誘惑が昼も夜も続く

今日この頃だ