ソロツーリストの旅ログ

あるいはライダーへのアンチテーゼ

振り返ってみるとオートバイがいちばん好きだった

いくら安いからと云って2か月後の予定を立てるなんて、どうかしてる

2024年03月29日 | R100Trad (1990) クロ介


朝、外へ出てみると

ゼンマイをギリリッと巻くような特徴的な鳴き声が聞こえた

反射的に空を見上げるとはたしてそれは南国から帰ってきたツバメたちだった

まだ冷たい早春の空気を切り裂いて

3羽のツバメが滑るように飛び回っていた

いよいよ、春だ

さーて、今年はどこへ走りに行こうかな?



それにしても3月の半ばを過ぎて思いの外寒い日が続いた

結局最近ではいちばん春がのんびりに見える

ふくらみ始めた桜のツボミも少しこれには様子見

一足先に咲き揃ったモクレンやコブシも

少し花付きが悪く見える

つまりはそういう年もあるということか

どんなに気象予報にスーパーコンピュータを用いようとも

「自然」は、当たり前だけどそれを顧みない

それが「自然」というものだ

もともとボクたち日本人はそのことをよく知っているはずの民族

だから古来から自然やその営みを畏れ崇めてきた

人間の想像を超えることなどきっとこの宇宙にはたやすいことだ

浅はかで傲慢なこの集団は少し謙虚に過ごすべきではないのだろうか

アタマを使いすぎていることに気付かない

自分とは誰のことなのか

自分とは何を指していうのか

ちっともわかってないのだ

自分とはこの天然の身体のことだ

だから自分のことはこの身体に任せておけばよい

この世界の美しさや不思議さを理解できるおそらく唯一の存在として

謙虚に生かしてもらうだけで良い



そして今日はついに激しい雨と雷の一日になった

冬と春の最後のせめぎ合い

そして春がその勝利を高らかに告げる

「春雷」はそんな春の勝利を告げる合図だ



まだ少し寒さが残るかもしれない

と思いながらも北海道へ行く5月のフェリーを押さえた

本当は行き当たりばったりがボクのスタイルだけど

「早割り」なるものの価格がメチャ安なのだよ

だから協議(ひとりですけどなにか?)の結果

雨でも寒くても何でもいいじゃないか、と主張するビンボー族に押し切られ

予約ボタンをクリックしておいた

安いからという理由で2か月も前に予定を立てるなんて

我ながらどうにかしてる



ついでに云うと

こいつもビンボー族案件なのだけど

400ccであるSRが使用機体に選出された

クロ介(980ccオートバイ)とのフェリー代差額がなんと7500円

これはとても看過できない金額だぜェ!と奴らが食い下がる

ビジホに1泊、往復分なら2泊分は浮いてくるんですぜェ!と

フルドレスのハーレー何某とかフルパニアのR-GSなんかと比べれば

クロ介なんぞ中型とさほど違わぬのに

乗船時に車検証まで見たがるなら重量で料金設定して欲しいね

まあここでグチっても詮無い事ではある



細かいルートや日程を決めるつもりはもちろんない

まだ行っていないニセコパノラマラインと野付半島の道道950号線は走りたい

そして今回はオロロンとエサヌカはあきらめておく

決まっているのはこれだけ

荷物も「寅次郎」に倣ってミニマムにしたい

下着、着替えは2着くらい

地図とipadと充電器

タオルとポリ袋くらいかな

あえてコーヒーセットは持って行こう、のんびりするために

イスはやめてピクニックシートだな

あれならどこでも寝ころべるし

北海道だからと云って特別に期待するものは何もない

十数年ぶりに北海道の道たちに会えることだけが

ただただ楽しみだよ

照るも良し、渋るも良し

それこそボクが望むオートバイの旅というものだ



春雷の一日が明けて

久しぶりに青空が広がった

激しい雨に空気中のチリが流されて視程が良い

高いところへ昇って行って景色を眺めるには最適な日だ

クロ介を引っ張り出してそそくさと支度する

暖機を始めるがやはり仕上がりが早い

寒いといってももうそこまでではないのだろう

迷ってライトダウンを羽織ったけどこれはもういらなかった

汗かくかな、と思いながら久しぶりに高速に乗る

縦置きクランクのフラットツインは今日も快調

春の空気を切り裂いて滑るように走る

何度も云うけど

一度この縦置きクランクは経験しておくべきと思う

それくらい独特な感覚がある

BMWかモトグッチ

ああホンダのゴールドウィングもあるか

グッチは90°V型だからちょっとフィーリングが違う

ドリュウウウウウウウーと軽やかに吹き上がる

でも気持ち良さは少し似ている



浜松SAのスマートICで下へ降りる

この辺り、引佐の山は硬い岩でごつごつして険しい

都田川にぶつかって風車が立ち並ぶ山へ登っていく

狭くて急な取り付け道路をゆっくり上ると展望台に着く



ここから遠州平野が一望

その向こうには遠州灘が広がり

東に目を凝らせば伊豆の山並みまで見渡せる

視程は約100km

夜景がきれいそうだけど

夜中にここへ来るのはちょっと大変かもしれない

本当にこの風景以外何もないところ

もちろんこの景色があればそれでよい



そのあと久しぶりにオレンジロードへ行ってみた

むかしはシュワンツとかドゥーハンが煙を吹いて走っていた

そういうボクもガードナーとか思っていた節がある

いまはむかし、だ

もちろんもう峠を攻めるなんてしないけど

あの頃より確実に上手くなっているとは感じる

滑らかでスムーズな走らせ方が出来る

そしておそらくマージンが増えた

ワインディングで大切なのはマージンだ

それが自分だけでなく周りの人の安全にもつながる

安全に走ることが何より最優先だ



やっぱり春は気持ちが良い

ベタな言い方だけど生まれ変わったような開放感がある

もうすぐ桜も咲くだろう



未知の体験に歓喜したサルは繰り返しスロットルを捻り続ける

2024年03月13日 | SR400 RH16J(2019)シータ


「春」と云ってももう良いのだろう

水面を渡ってくる風が緩やかに南から吹き付けるこの海岸

今日は波も穏やかで遠くまでふんわりと凪いでいた

アルコールストーブで沸かした湯でコーヒーを淹れると

少しコーヒーにアルコールの匂いが移ると思わない?

あ、思わないか

そんなもやもやとしたコーヒーを啜りながら

渚に打ち寄せる波を飽きもせずに眺めている



この海岸にはもう40年以上前から繰り返し来ているけど

海の方を眺めている限りでは本当に何も変化が無くて

遠くに見える渥美半島に少し風車が建ったくらいか

消波ブロックも防波堤もそのまま

だからここへきて海を眺めていると

まるで時間が止まっているかのように感じる

過去も未来も何も変わらず

ボクが生まれる前も

ボクがいなくなった後も

ここでは本当にそんなことがどうでも良いと思えるから不思議だ

自分の意識をどこかへ放り投げだして心の底から安堵できる空間だ



とにかく、もう春だ

3月に入ったその日は

あんまり陽気が良いので

いつもの「涼風の里」へ行ってみた

暖かかったとは云え

山里の冬にはそれなりの厳しさがある

ヘルメットのシールドから忍び込む風は

まるでモランの溜息のように凍えて

ボクのカサカサの頬を冷たく切りつける

冬用の綿の入ったグローブの中ではすでに指先が痺れていた

凍結の感じはほぼ無いけど

路面温度は相当低そうだから少し気を遣う

それでも案外いつもどおりに「涼風」に辿り着いた



3月は「風の候」だ

移動性の高気圧が東の海上に抜けるとそれを追って低気圧が近づく

南の強い風を呼び込んだ後

通過時には嵐のような雨と風をもたらし

雨が止むと今度は北寄りの冷たい風を吹き込む

正直云って夏や冬の厳しさよりこの季節の「風」が嫌いだ

雨より断然「風」がイヤだね

風の中では思考が停止してしまうのだ

オートバイに乗って走る様を俗に「風になる」とか云うのがあるけど

「風になる」なんて一度だって思ったことないね

むしろいつも「風に逆らっている」って感じじゃない?

この日も風が出ていたが幸い緩やかなものだった

少しためらったけどその風の中でコーヒーを淹れてみたら

それはなぜだかちょっといつもより旨く感じた

風は嫌いでも

風の中で飲む熱いコーヒーは好きなのかもね

今日のコーヒーは風が強かったのでガスのストーブで湯を沸かした

そしたらそれはやっぱりガスの匂いが少しした

いや、これはカップのステンレスのクサ味かな



SRだ

なんと云う青なのかわからない「青」のSR400

ヤマハのHPで見たら「グレイッシュブルーメタリック4」とあった

ますます分からない

金属的な光沢の灰色掛かった青「4」

なんだ、それ?

1と2と3を見てみたい



名前はまだない

自分が買ったオートバイにいちいち名前をつけなくても、とは思うが

何となくいつも名前で呼んでいる

実はこの微妙な「青」色から密かに

「シータ」とか「シーちゃん」と呼んでいた

空から青色の光を放つ飛行石の力でふんわりと下りてきた

ラピュタの正統な王位継承者

「リュシータ・トエル・ウル・ラピュタ」

いや、やっぱり構えすぎで気恥ずかしい

きっとまだ変わると思う(気に入ってはいるけど)



SRだ

何度も云うが偉大なるXT500(パリダカ総合優勝にして連覇)という

エンデューロ(ヤマハはトレールという)モデルが素(ベース)

SR500はそのオンロード版として生まれたいわば双子だ

そして日本の特殊な免許制度に合わせるべく作られたSR400は

それらシリンダーのストロークをダウンさせた兄弟モデルで

ボアストロークがほぼスクウェアな500のエンジンを

ヘッドから作り直す予算が無く

コンロッドを長くすることでストロークを減らし生まれた

つまりSR400のショートストロークのエンジンは

大人の事情の結果でありおそらく必然ではなかったのだと思う

しかしこのことが逆に400を特別な存在にしたのだとも思える



それまでの単気筒エンジンたちと比べて

クランクマスが小さなSRのエンジンは(500に比べれば400の方が大きいが)

どうしても元気に回りたがるエンジンだ

キャブレター時代のSR400は7000rpmの最大出力に対して

最大トルクを6500rpmで発生させていた

これはインジェクションモデルになり少し下がったが

それでも最大トルクは5500rpmでのもの

だから(マルチとは比べ物にはならないが)やはり回して使うエンジンであり

現にエンジンもどちらかと云えば「回りたがり」だと感じる

巷で5型とか最終モデルと云われるボクのSR400だって

意識しなくてもスムースに高回転まで吹き上がっていく

もちろん4500rpmを超えると

お尻、足の裏や掌と云ったオートバイに触れている面に

強い振動が伝わってくるが

それはそれで刺激的でまったく悪くない

振動自体は硬質で強くはあるが角が尖っていないので

快か不快か、ならば間違いなく「快」だ

実際あまり気にせずに強く加速させ巡行へ持ち込むと

まるでデカいカブに乗ってる感じさえするのだ



けれどこの5型が出た頃

オートバイの専門誌で盛んに低速からの力強さが取り上げられた

中速域のトルク感はまるで排気量が上がったかのようで

日常域でスポーツできる「大人」のモデル

SRの完成形とまで絶賛され盛んにもてはやされていたのを思い出す

そもそもビックボア×ショートストロークのSR400

しかも従来のビッグシングルと比べて小さなクランク

ECUのコントロール位でそんなにも性格が変えられるものかと思うが

如何せん

ボク自身が以前のキャブ車に乗ったことが無い

唯一SRX-6をちょい乗りさせてもらったくらいで

あの時の記憶といえば左折とかで減速した時

ギアの選択を間違えると怖ろしくスナッチが出て

扱いづらかったというものくらいだ

だからこれは想像なのだが

「市街地でクルマに続く時5速へ入れずに4速キープだった」

という記述を見たことがある事からも

おそらく以前のSR400も回転を落としてしまうとスナッチが出て

粘るエンジンと云われながらもやはり使いづらかったのではないのだろうか

それをECUの魔法でトルクバンドを下げ

おまけにそこら辺で使うと排気音もよく聞こえる演出まで加えたのだ

ゆっくり走っても気持ち良いですよって云いたくて



まーこれまでの印象から云えばそれも決して悪くない

ただし4000rpmからのトラクションは逆に感じにくくなったんではないだろうか

2500くらいから4000rpmくらいまで続くトルクの盛り上がりは

それ以上回してもあまりはっきりとはしなくなるからだ

けれど実はボク

あることに気付いてしまった(思い出すだけでついニヤッとするほどね)

それはSRの5速ギアとこのエンジンの相性が

とても特別なものになっているということだ

「5速 2000rpm」

多分以前のSR達なら少しスナッチを感じたんじゃないかな

でも5型のSRはここから使える

この時の速度約40km/h

そこからスロットルを半分くらいガッと素早く開けると

一瞬のタイムラグのあとダッダッダッダッとダッシュを始める

それは

2500rpm 50km/h強

3000rpm 60km/h強

3500rpm 70km/h強

そして4000rpm 85km/hと

この時のエンジン音と排気音そして加速感がヤバい位だ(嫌いだなーこの言葉)

実質的な加速力ではなくあくまで加速感

フィーリングの話だ

それは今までどんなオートバイでも感じなかった感覚で

得も云われぬ快感を伴う

取り付かれたサルのように繰り返しスロットルを捻ってしまうほどだ

こんなにも大量のエンドルフィンの放出を実感したのは初めてかもしれない

そしてこれこそが低速からのトラクションの魅力なのかと気付いた

ECUによって作り出されたこの特性

昭和世代のジジイにはそれが癪に障るけど

やっぱり無条件で楽しい

意味もなく60km/hくらいでスロットルをガバッーガバッーって

おサルは何度も何度も繰り返しやってしまうのよ

そしてそれはやっぱりコーナリングにも効く

コーナー入口でエンジンを2500rpmに置く

3速 35km/h→4速 45km/h→5速 55km/m

とバンクしながらでもシフトアップしていき

4000rpmまで引っ張れば80km/hを超える

上りがキツければ4速だろうけど

高速コーナーなら5速ホールドのままスロットル操作だけで走れる

そしてその方が楽しいのだ

え?

遅い?

そうなんだよ、遅いんだよねー

でもブラインドの対向車に怯えながらペースを上げすぎるより

しっかりとトラクションの掛かったコーナリングの方が

断然楽しいよ



大型のオートバイに乗り続けて

老いた時どこへスペックを落とすか

これは結構当事者には問題なんだけど

個人差も大きいしね

バイクを操るこだわりや深みを感じられるという視点が大切なのだと思う

ボクらレプリカ世代にはのんびりトコトコなんてできない

だから原二、軽二輪はやはり楽しくない(2ストなら別だけど)

250を超えると車検も問題になるけど

ひとつのレベルとしてやっぱり排気量500ccくらい

最大トルク3以上

この辺に答えがあるような気がする