自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★メディアのツボ-37-

2007年01月17日 | ⇒メディア時評

 これからのテレビメディアを考える上で、ポイントとなるのがデジタル化後のビジネスモデルだ。広告収入の伸びが期待できない現状で、ITを使って、さらに地デジという新たなメディアツールを駆使してテレビ局はどのように広告放送以外の収入(以下、放送外収入)を得ればよいのか…。このテーマで、「地デジとコマース~新たな事業の可能性を探る~」研究会(月刊ニューメディア編集部主催)が昨年10月、金沢大学などで開かれた。全体コーディネーターを担当した立場から今回の論議のポイントをまとめてみた。

  テレビ局がモノと向き合う時

 「単なる物販サイトではない。地域おこしの心意気でやっている」。北陸朝日放送(HAB)業務部、能田剛志部長は力を込めた。講演タイトルは「ECサイト『金沢屋』の6年で得たローカル独自のコマース展開とは」。放送エリアである石川県の地場産品にこだわり、この6年で生産者とともに100余りの商品を開発した。商品の採用が決まると、プロの写真家とライターが現地に入り、取材する。生産者の人となりや商品ができるまでの物語がテキストベースで紹介される。単に商品の画像を並べただけのショッピングモールとは異なり、手間ひま(コスト)をかけている。そのせいもあり、売上は緩やかな右肩上がりであるものの、単年度の黒字決算には至っていない。「(単年度黒字は)08年を目標にしている」と。今年5月、姉妹サイトとして「山形屋」(山形テレビ)が誕生した。システムと運営ノウハウを系列局にのれん分けするほどになったのである。

  「注文を受けた豆腐が崩れて配達されたらどうするか」。金沢屋での意見交換のときに出た実際にあったケースだ。HABは配達先(北海道)からの苦情で即、同じ商品を別便で送り注文主の許しを得た。と同時に、最初に配送した運送会社には集配上のトレーサビリティ(追跡可能性)に弱点があると判断して別の運送会社に変更した。こうして受注、生産、配送、決済という一連の流れの中で発生した大小の問題点を一つひとつ改善した結果、受け取り拒否や返品は極めて少ない。能田氏は、放送外収入としてコマースはすぐに儲かる事業ではないとした上で、「これまでテレビ局は視聴者の顔を見ないで視聴率ばかり気にしていた。その延長線で、売上高だけを気にして顧客対応をおろそかにしたらビジネスは成り立たないだろう」と従来のテレビ局の発想でコマース事業を展開することを戒めた。

  「地元テレビ局は商店街とIT連携をどう展開すればよいか」のタイトルで講演した金沢大学経済学部、飯島泰裕助教授はITを駆使して地域をどのように活性化するかをテーマに数多くの事例を手がけてきた。輪島市の山村集落である金蔵(かなくら)地区では、お年寄りたちが稲はざで天日干した米を「金蔵米(きんぞうまい)」のネーミングで売り出している。ところが地元の店頭ではなかなか売れない。そこで飯島ゼミの学生たちがブログで金蔵の丁寧な米作りづくりを紹介して、食にこだわりを寄せている人たちのブログに片っ端からトラックバックを貼った。すると徐々に手応えが出てきて、生産量は少ないもののブランド米としての道を歩むきっかけをつくった。「Web2.0」のコミュニティ形成力を活用して、学生が支援に乗り出した事例である。そこで、飯島氏は、「表現者のプロとしてのテレビ局ならばもっと多彩なことが展開できるはず。ITを組み合わせれば、地域の特色ある生産者や商店街の人たちとテレビコマースを連動させた多様なコンテンツができる」と指摘した。

  続いて、「生産者にとって使い勝手のよいECサイトと放送局への期待」の演題で話した「夢一輪館」(石川県能登町)、高市範幸代表は生産者として熱く語った。「頑張っている生産者というのは得てして口下手、売り込むのも下手。ホンモノを掘り起こし伝えてくれるメディアこそ生産者にとって使い勝手がいいのです」と。高市氏は前述の金沢屋に出品する生産者の一人。「畑のチーズ」(豆腐の燻製)や「牡蠣いしり」(魚醤)のヒット商品はコマースがなければ世に出なかったかもしれない。むしろ、コマースサイトの運営側と生産者のよい関係から生まれたシナジー(相乗効果)とも言えるだろう。

  ホンモノの時代とテレビではよく叫ばれるが、テレビ局自身はリアルな「モノ」を扱ってこなかった。2000年ごろからテレビ局の何社かはショッピングサイトを立ち上げた。しかし、その多くはテレビのメディアパワーを背景にした「テナント」であって、自らモノを扱ったわけではない。結局、楽天など「銀座の目抜き通り」となったサイトに店子は流れていってしまった。そして、地デジ時代という新たなメディア環境に入って、コマース事業の再構築に迫られている。そこで何を売ればよいのか、どう商品の独自開発を行うのか、テレビ局が本気でモノと向き合わなければならない時代になったと、今回の研究会で改めて実感した。

 ⇒17日(水)午後・金沢の天気  くもり

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