自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★メディアのツボ-39-

2007年01月29日 | ⇒メディア時評

 1月7日放送の番組「発掘!あるある大事典Ⅱ」で、週刊朝日が11項目のデータについて関西テレビに質問状を送ったのが18日。その返事を催促したのが20日。しかし、関テレが応じたのは社長の緊急記者会見だった。その会見も、関テレ社長は当初は「納豆のダイエット効果の有無は学説で裏付けられている」として、「番組全体は捏造ではない」と主張していた。しかし、捏造データの余りにも多さ(関テレ発表だけで5ヵ所)を記者陣から追及されてしぶしぶ捏造を認めたのだった。

   フードファディズム煽ったツケ

  関テレが20日にホームページで公表した内容によると、捏造は3パターンである。一つは「データの捏造」。今回、被験者のコレステロール値、中性脂肪値、血糖値の測定せず、また、比較実験での血中イソフラボンの測定せず、さらに血液は採集をするも実際は検査せず、数字はすべて架空だった。二つ目が「コメントの捏造」である。米国テンプル大学アーサー・ショーツ教授の日本語訳コメントは内容は本人の話したものとはまったく違っていた。三つ目が「写真の捏造」である。やせたことを示す3枚は被験者とは無関係の写真だった。

  「納豆でやせる」の結論ありき番組なので、裏付け事実(データ)の構成をする番組ディレクターは結局、作為に走った。調べてみると、この番組の制作は9チーム150人で回している。つまり、1チームが2ヵ月(9週)に1本のローテーションで制作することになる。科学データを取り、結果を出し、分析する事実構成を60日余りですべてそろえるには時間的に無理がある。

 たとえば、テンプル大教授のインタビュー取材は2泊4日の取材旅程だったという。正味2日の取材で、キーマンから研究の核心をインタビューするわけである。研究者の立場からすれば、日本からわざわざ来た取材クルーとは言え、苦労して積み上げた研究成果をホイホイと出すはずがない。普通なら、取材の狙いや番組の構成、自分のコメントの使われ方まできちんと聞いた上でようやく自分の研究の触りを語る程度だ。取材クルーの方も、アメリカで納得いくまでインタビューをする、あるいは片っ端からデータを収集するというつもりはなく、アリバイ的に取材をしたかたちにしたかっただけだろう。

  1992年9月30日と10月1日の2夜で放送されたNHK番組「禁断の王国・ムスタン」の「やらせ」とは違う。ムスタンの場合は、番組の完成度を求めて、イマジネーションを膨らませて(一面で楽しく)捏造した。しかし、「あるある大事典」の場合は時間に追いかけられながら、あたかもネズミのサキュレーションのごとく回転しても、事実を構成することは時間的にできなかった。だから、その時間を埋め合わせるために捏造したのである。その現場の苦境を放置しておいたツケが関テレに回ってきた、と言える。

  その後、「みそ汁で減量」(06年2月放送)、「レタスで快眠」(98年10月放送)などで疑惑が出ている。おそらく520回の番組すべてについての検証を関テレはしなければならない。監督官庁である総務省近畿総合通信局からそのようなお達しが来ているはずである。大きな負債を関テレは抱えたことになる。特定の食品の効能を信じ偏食するフードファディズム(food faddism)を視聴者に煽り、利益をむさぼったたツケでもある。同情の余地はない。

 ⇒29日(月)夜・金沢の天気  くもり

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