宮崎県の官製談合事件での前知事の辞職に伴う出直し知事選がきのう21日行われ、新人の元タレント・そのまんま東氏(49)=無所属=が初当選を果たした。知名度を生かし、草の根選挙を展開。入札制度改革や農産物を「そのまんまブランド」として売り出すことなどを訴え、激戦を制した。
「そのまんま東」トップにせず
当初、「泡沫候補」とも言われていた元タレント候補が激戦を制したとあって、各新聞やテレビはトップニュースの扱いで報じた。ところが、このニュースを朝日新聞大阪本社はトップ扱いにしなかった。同じ朝日新聞でも、東京本社はトップだったのにである。大阪本社の一面トップは生活福祉資金の貸付金の272億円が未回収であることを報じたものだ。ホットなニュースである「そのまんま東氏当選」は準トップだった。なぜか、である。
きょう、私が担当する「プロと語る実践的マスメディア論」の授業の中で、その答えを直接聞くことができた。授業で講義をお願いした朝日新聞大阪本社の嶋田数之編集局長補佐が授業の中でこう説明した。「確かに、(そのまんま東氏の)当選はニュースだ。しかし、未知数のものをトップで扱って、最初から持ち上げることはできない」と編集判断で抑制を効かせたことを語った。
その背景の一つは、「横山ノックの記憶」がまだ新しいからだろう。大阪府知事だった横山ノック氏は1999年、APECの成功など実績も評価されて2期目の選挙で235万票という大阪新記録の得票によって再選された。しかしその選挙活動の際に自陣営の運動員をしていた女子大生にセクハラをしていたことが選挙終了後に発覚し、当初は否定して2期目に就任したものの、同年12月に強制わいせつ罪で在宅起訴され、2000年1月に辞職に追い込まれた。
嶋田氏が「未知数」というのも、今回の選挙は官製談合事件が背景にあり、田中康夫氏(前長野県知事)の「脱ダム宣言」のように新しい政治の風をつくったというわけではない。さらに、1998年に当時16歳の少女からいかがわしいサービスを受けて、児童福祉法違反で事情聴取を受けるなど、「横山ノックの記憶」と微妙にダブってくる。トップ扱いにするには、確かに「未知数」な部分が多い。
当選後の会見で、そのまんま東氏は本名の東国原英夫(ひがしこくばる・ひでお)で今後、政治活動をしていくと言う。確かに、選挙中もかつての同僚のタレントの応援を断って草の根運動を「マラソン」で展開した。それだったら、「脱タレント宣言」をして、立候補の段階から本名を名乗るべきだったろう。
当選のニュースを聞いて、何人かと話題にした。すると、「宮崎県政はさらに混乱するのではないか」との話になり、巷間では決して好意的には受け止められていない。当選は驚きであったが、期待感がついてこない。この意味でも、ニュース価値としてトップにしなかった朝日新聞大阪本社の扱いはプロの冷静な判断であったと言える。
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