自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★デープな能登=3=

2007年08月17日 | ⇒トピック往来

 能登の人たちには得意技がある。それは、人を「もてなす」ことに非常に長けているということだ。そのプロ化した人たちが板前や仲居となって能登半島・和倉温泉を支えている。

   「もてなし」のプロを育てる祭り

  その話を和倉温泉のある旅館の経営者から聞いたのは十数年前のことだが、いまもその「構造」は変わってはいないだろう。経営者の話は実に説得力があった。能登には七夕ごろから、それぞれの集落単位で地区の祭りが始まる。「キリコ祭り」と呼ばれ、高さ十数㍍の奉灯キリコを担ぐ。神輿を先導にして地区を巡り、最後に神社に集結して、神事を終える。鉦(かね)や太鼓、笛などの鳴り物と若い衆の掛け声で結構にぎやかな、そして伝統ある祭りが繰り広げられる。

  経営者が強調したのは、神社での祭りではなく、家での祭りである。その祭りを見学に来てくださいと、遠方の親戚や世話になっている人、友人を自宅に招く。それを家族総出で接待する。能登の子なら、3、4歳でもお客に座布団を出す所作を覚え、中学生なら日本酒の熱燗の加減がわかる、という。女の子は祭り料理の準備から盛り付けまで母親を手伝い、そして覚える。また、招いた分、今度は招かれる。こうした「ハレの場」に幼少のころから相互に行き来を繰り返すことで、招く言葉と招かれる言葉、そして身のこなしが洗練されていく。「もてなすという所作は考えてできるものではない。経験に裏打ちされた勘で行動するものなのです」と。

 能登の人たちの祭りでの「もてなし」を会話で聞くのも実に軽妙で洒脱である。「ささっとお入りなさい」「遠慮せんと、まま、上座へ」とすすめる主(あるじ)。すでに隣に座っている人に気遣いながら、「はあ、気が張るね」と身を小さくして座る客人。隣に女性がいれば、「はあ、べっぴんさんの隣やと緊張して、酒を飲まんでも(顔が)赤かくなるね」と雰囲気を盛り上げる会話がポンポンと飛び出す。先客もその会話に入って笑いが絶えない。こうしてエンドレスに座持ちがするのである。

  和倉温泉とは別に、金沢のネオン街のスナックやクラブの経営者にも能登の女性が多い。その中には最近、上海に支店を出したやり手のママもいる。金沢の夜の社交界を支えているのも間違いなく能登の人たちだ。

⇒17日(金)朝・金沢の天気  はれ   

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする