国土交通省が認定する「観光カリスマ」という制度がある。地域の資源を観光に上手に生かして、ビジネスを行っている人の中から全国で100人が選ばれている。北海道の富良野で「フラワーランド」を経営している伊藤孝司さんという人もその一人。そのフラワーランドを立ち寄った折、伊藤さんの書かれた「自然と共生する人類と農業」という小論文がスタンドに置いてあったので一部いただき読んだ。この論文のスケール感は、富良野の大地を超えて大きい。
ラベンダーの花言葉
その文を紹介する。「…地球の温暖化は異常気象を引き起こすことになり、世界的に農産物の減収を招き、食糧は不足し、産地は北へ北へと移動する」とし、「…北海道の、温暖化進行で産地が北へと移行する中でその使命は益々重大になると考えています」と。北海道は食糧自給率180%を超え、農業生産額が1兆円を超える農業生産基地である。地球の温暖化によって、さらに農業の適地化が進むことになり、北海道の役割は大きくなる、と。「21世紀半ばには世界の人口が100億人で安定すると言われていますが、そのとき安定的に供給を実現するためには、現在の3倍もの食糧が必要とされているのです」
富良野の高い台に立って、遠く十勝岳地連峰を見渡しながら地球温暖化と北海道、そして地球の21世紀を展望するとそんな発想が浮かんでくるのかもしれない。
富良野といえば「北の農」の憧れの地、そして日本でもっとも農産物のブランド化が進んでいる、と我々は思っている。しかし、この地も過疎化が忍びってよっている。人口25000人余り、1990年代をピークにして減り続けている。観光バスから眺めた範囲だが、休耕地もまばらにある。
大地に大きく展開するランベンダーなどの花畑などは見事だ。旅情をそそるし、テレビドラマ「北の国から」のイメージもある。しかし、何かが足りないのだ。それは「環境の視点」なのだと思う。具体的に言えば、もし、富良野の農業が環境配慮型の農業へと大きく転換すれば、日本の農業が変わる。これまでのブランド価値にさらに付加価値をつけることができるのではないかと思う。
そう思った光景がある。花畑に雑草がはえていないのである。観光化されたファームに雑草は似合わないのであろう。これはある意味で気持ちの悪い光景である。ラベンダーの花言葉、「疑惑」※を感じた。環境配慮型農業とはなるべく農薬を使わない、なるべく化学肥料や除草剤を使わない、そんな農業である。
確かに、「北の国から」の作家、倉本聡氏らが、富良野プリンスホテルのゴルフ場の一部35haを森に還すため、NPO法人「富良野自然塾」を設立し、植林運動を進めている。また、富良野市も徹底したゴミの分別をしているようだ。しかし、富良野、そして北海道の環境の本丸は環境に配慮した農業ではないのだろうか。伊藤氏の論文でも、その点が触れられていないのだ。
JR札幌駅近くの日航ホテルに泊まった。朝食のバイキングで人気だったのは有機野菜コーナーだった。消費者が求め始めているのはこの環境トレンドではないのだろうか。
※ラベンダーの花言葉「疑惑」・・・ラベンダー畑にはヘビやハチが多く、根元を気をつけよ、ということから由来する。これはバスガイド嬢の説明。
⇒22日(水)午前・能登の天気 あめ