自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★過疎とコミュニティビジネス

2010年08月11日 | ⇒トピック往来
 人の営みによって支えられる里山にとって、過疎・高齢化によって地域の担い手を失うことは存亡の危機であり、人の手が入らなくなった里山は荒廃して原野に戻ってしまう。それを防ぐには、地域を活性化して、共同体や文化守っていかねばならないという視点は一貫している。では、地域を活性化するとはどのような意味かと突き詰めると、地域の課題を地域住民がビジネスの手法でどう解決するかということに行き着く。

 金沢大学の「能登里山マイスター」養成プログラムの修了生による「サカキビジネス」はそのよい事例である。耕作放棄率が30%を超える奥能登(輪島市、珠洲市、穴水町、能登町)にあって、土地は有り余る。そこに、花卉(かき)市場では品質がよいといわれる能登のサカキを放棄した田畑に挿し木で植えて栽培する。しかも、サカキは摘みやすく、高齢者でも比較的楽な作業である。過疎や高齢化で進む耕作放棄地と、お年寄りの労働力に目をつけたビジネスなのである。いまでは2地区のJAがサカキ生産部会を結成し、高齢者を中心に組織的な取り組みが始まって入る=写真=。

 埼玉県から輪島市の山間部に移住してきた女性は、集落に宿泊施設がないので、自らが住む空き家だった家を「ゲスト・ハウス」として衣替えした。すると、農村調査の学生や棚田の保全ボランティアにやってくる都市住民、一般客が口コミでやってくるようになった。また、近くでは地元の女性グループがお寺の渡り廊下でカフェを営み、地方でも希薄になりがちな近所の人々の憩いの場として重宝されている。この地域に足りないもの、欠けているものは何か、それを自分たちのアイデアで解決しようとする発想なのである。今、能登ではこんな人々が草の根で増えている。このような地域資源を生かしながら地域に役立つビジネス手法は「コミュニティビジネス」と呼ばれている。

 「能登里山マイスター」養成プログラムでは現在、49人の受講生のうち、13人がIターンやJターンなどの移住組である。彼らもまた能登で生きていく生業(なりわい)としてコミュニティビジネスを目指している。驚くのは、「よそ者」である彼らには、地域の課題がよく見えるということである。IT技術者が農業青年グループのリーダーに、広告マンが特産の地豆を使った豆腐屋の店長に、青年海外協力隊員でアフリカ帰りの女性はハーブや地元食材を使った調理師に。彼らの身の処し方を見ていると、まるで地域の空白地帯を埋めるようにはまり込んでいるのである。そして、里山や里海という地域環境は彼らの可能性を無限に引き出しているようにも思える。

 そのささやかなビジネスの経済的な成果は決して大きくはない。ささやかな発想だから、課題解決にもビジネスにも失敗もあるかもしれない。しかし、農村と都市、自然と人間など、今、われわれはさまざまな関係性を失っている。彼らの試みは、新しいつながりを見つけることで少しでも豊かになり、地域に自信と誇りをもたらす動きになるに違いない。これが地域再生、あるいは地域活性化の姿であろうと思う。まだミクロな動きで顕在化はしていないものの、いまここに確かな未来があると感じるからである。日本全国にこうした若者の動きはある。なかで、あえて能登モデルと言ってもよいかもしれない。

⇒11日(水)午後・金沢の天気   はれ
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