自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★ニュースは毒を飲んだか

2010年08月13日 | ⇒メディア時評
 テレビの電源を入れれば、新聞を広げれば、ニュースは目に入ってくる。最近はパソコン画面でインターネットを経由してニュースを読むことも多い。われわれはそのニュースを脳に入れて生活している。最近は、痛ましいニュースが多すぎると感じている。幼児への虐待死、保険金殺人、高齢者の死亡放置と年金詐取など。このようなニュースに毎日接すれば、視聴する側の精神構造は一体どのようになってしまうのかと考えてしまう。

 「不明100歳超 279人に」「京阪神3市に集中」との見出しがきょう13日付の朝日新聞に躍った。朝日新聞社が集計した、不明100歳超279人のうち221人が京阪神、つまり京都府、大阪府、兵庫県の3自治体なのだ。また、東北や北陸など26県は1人もいなかった。人口が1300万人の東京都が13人なので、人口比としては京阪神は異常に多いことになる。すると、印象として「行政の怠慢」「年金詐取」「老人への虐待死」などいろいろと考えてしまう。もし私が京阪神に住んでいたら、思いはもっと複雑だろう。

 こんなニュースを書いてもらって迷惑だと言っているのではない。このようなニュースで心が憂鬱になったり、会話の話題が暗くなる。京阪神の人たちはこのニュースをいつものように、明るく笑い飛ばせているのだろうか。こんなニュース、誰も目にしたくはない。不快なのである。

 この「不明100歳超 279人に」のニュースは始まりであって終わりではない。いまは住民登録上の話であるものの、実態調査が行政と警察が一体となって今後進むはずである。すると何が暴かれるのか。想像しただけでさらに身震いが起きるほどの現実が見えてくることになる。そこに「金(かね)」という現実が見え隠れしてくると「詐取」という刑事事件となる。

 このニュースに終わりもない。さらに、世論に突き動かされて、「不明100歳超」から「不明90歳超」の実態調査へと進んでいくだろう。恐らく何年と実態解明に時間がかかるだろう。奇妙、奇怪、おぞましい、空恐ろしい…。これから続々と出てくるであろう「ニュース」である。肉親、家族にまつわる深淵が暴かれる。

 このニュースを突破口に浮かび上がるのは日本の社会の現実だ。フランスの社会学者デュルケームはかつて、社会の規範が緩んで崩壊に至る無規範状態をアノミー(anomie)という言葉を使って説明した。個人レベルでは、欲求と価値の錯乱状態、つまり葛藤(かっとう)が起きている。「不明100歳超279人」のニュースが今後映し出していくのは、まさに社会の混乱や崩壊へと至る個人の葛藤の数々ではないか。それにしても、そのようなニュースを取り上げざるを得なくなったメディアには同情せざるを得ない。「ニュースは毒を飲まされてしまった」あるいは「お気の毒」と。

⇒13日(金)夜・金沢の天気  くもり
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