自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★「こう見る」2冊~上~

2012年09月11日 | ⇒ランダム書評

 8月28日から9月2日の中国・浙江省行きで、機内で読もうと2冊の本を関西国際空港で買った。『「誤解」の日本史』(井沢元彦著・PHP文庫)と『中国人エリートは日本人をこう見る』(中島恵・日経プレミアシリーズ)だ。その中から、面白いと思ったことを何点か。

          「自然災害を受けても自然を恨むことがない日本人」         

 『中国人エリートは日本人をこう見る』で紹介されている中国人エリートは中国共産党や政府の将来を嘱望された若手といった現役ではなく、日本の大学で学ぶ留学生や日本の企業で職を得て働く若者ら、いわば「未来のエリート」たちである。筆者は、彼らに粘り強くインタビューして、日本に対する本音を引き出している。

  北京でミュージシャン、作家として活動の場を広げる女性(25歳)の言葉が印象的だ。「日本はアジアの中で最も東方文化の伝統が残っている国」。その理由として、高い木の上で枝降ろしの作業をする職人「空師」が作業を始める前に塩とお神酒を木の幹にまくという儀式や、女の子が浴衣で花火大会や夏祭りの出かけるよう様子など、文化大革命(1966年から10年間)でいったん否定された中国の伝統文化の在り様と比較すると、日本では伝統文化が残っているというのだ。

 広い中国の一点だけを見て考察するのは危険だが、今回の中国旅行で上記のことと逆に、中国における伝統の在り様を考えた。訪ねた浙江省の村々では、新しい3階建ての建物が林立している。中国人のガイドに聞くと、「3階建ては見栄ですね。2、3階は使っていない家が多い」と。伝統的な家屋は残ってはいるが、どれも老朽化している。伝統と近代をミックスした家屋や、伝統建築をリフォームしたような新しい家屋を探したがなかなか見つからなかった。伝統家屋は「過去の遺物」と化しているのかもしれない。

 震災と日本人をみつめる中国人の若者の証言は新鮮だった。滞日10年の男性会社員。「日本人は自然災害を受けても自然を恨むことなく、大自然とともに生きていく覚悟がある。自然災害は『天命』と受け入れて、どんな災害が待ち受けていようとも『故郷』にこだわり、リスクがあるのに『故郷』で生きていく道を選択する。これは合理的に考える外国人にはわかりにくい感情です。でも、日本人にとって故郷とはそれだけ特別な存在なのでしょうね」

 偶然だったが、今回の中国のワークショップでも、日本側の発表で一つのキーワードとなったのが、「レジリエンス(resilience)」だった。レジリエンスは、環境の変動に対して、一時的に機能を失うものの、柔軟に回復できる能力を指す言葉。生物の生態学でよく使われる。持続可能な社会を創り上げるためには大切な概念だ。2011年3月11日の東日本大震災を機に見直されるようになった。「壊れないシステム」を創り上げることは大切なのだが、「想定外」のインパクトによって「壊れたときにどう回復させるか」、これが大切なのだ。日本は古来より災害列島である。この列島からは逃げられない。ならばでどう回復させるか、復興させるか、レジリエンスな日本人。中国人はよく日本人のことを見ている。

⇒11日(火)夜・金沢の天気  雨

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