自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★世界農業遺産の潮流=4=

2012年09月01日 | ⇒トピック往来

 「世界農業遺産の保全と管理に関する国際ワークショップ」の2日目(8月30日)と3日目は現地視察が行われた。最初に訪れたのが、紹興市が次のGIAHS認定に向け動いている会稽山(かいけいざん)の「古香榧林公園」。当地では、秦の始皇帝も登った山として知られる。ここでは昔から榧(カヤ)の木が植栽されている。ざっと4万本、中には樹齢千年以上のものある。カヤ(学名:Torreya nucifera)は、イチイ科の常緑針葉樹。材質は弾力性があり加工しやすい、樹脂が多く風合いが出る。碁盤や高級家具、木彫の材として用いられてきた。

        カヤの木、千年の知恵と活用

 また、種子は食用となる。当地では、そのままではアクが強いので数日間、灰汁につけてアク抜きしたのちに煎る。実際食べてみると、歯触り味ともにアーモンドのようなだった。果実から取られる油は高級な天ぷら油の食用として、虫下しの漢方にも用いられるという。間伐材や枝は燻して蚊を追い払うためにいまでも使われている。

 世界農業遺産(GIAHS)に申請する上での売りは、成長は遅いが寿命が長い、このカヤの木を接ぎ木などの方法で植栽する技術や、暮らしと密着した2次加工の知恵など「木と人の総合的なかかわり」である。FAOによるGIAHSの認定基準は農業生産、生物多様性、伝統的知識、技術の継承、文化、景観が対象となる。その評価基準からすれば、伝統的知識、技術の継承、文化などの評価点は高いのかもしれない。それにしても驚くのは、認定前からGIAHSを意識した公園整備やDVD、解説書の作成にかける周到な準備である。

 ここまで中国がGIAHSにかける意味合いは何だろう。中国には1958年から実施されている戸籍制度がある。すべての国民は「農業戸籍」(農村戸籍)と「非農業戸籍」(都市戸籍)に分けられており、社会保障や教育、医療などは、どこに戸籍があるかで変わってくる。行政サービスは戸籍地でなけらば受けられない。ところが、都市に産業立地が集中し、都市と農村の格差が広がっている。それでも人々の農村から都市への流失が起きている。これは日本でも同じだ。中国政府とすると、農村の生産基盤に付加価値をもたらすことで農村の生活基盤を安定させたい。おそらくそのような思いがGIAHSに傾注する一つの要因になっているのもしれない。

 この後、王羲之が書いた「蘭亭序」にちなんだ公園「蘭亭」(紹興市)に赴いた。353年、王羲之と当時の名士たち41人がこの地で集まり、曲水(曲がりくねった小川)の両側に座り、清流に流された酒盃が自分の前で止まったら即興で歌を詠むという宴会を楽しんだとされる。その様子が再現されて、人気スポットになっていた。竹林は京都のお寺のような雰囲気だった。

⇒1日(土)夜・浙江省青田県の天気 くもり

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