自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆世界農業遺産の潮流=5=

2012年09月02日 | ⇒トピック往来

 水田で養殖をしている魚が稲を突くと、稲についた害虫が田んぼの水面に落ち、それを魚がエサとして食べる。まさに稲と魚の共生、そんな光景を見学しようと「世界農業遺産の保全と管理に関する国際ワークショップ」3日目(8月81日)と4日目の現地視察は、浙江省麗水市青田県を訪れた。紹興市からバスで4時間余り、直線距離にして230㌔ほど南に位置する。

           GIAHS認定第1号「青田県の水田養魚」の取り組み

 青田県の水田養魚は2005年5月、国連食糧農業機関(FAO)から初めてGIAHS認定を受けたグループの一つ。視察は3日目が青田県方山郷竜現村で、4日目は小舟山郷の2ヵ所で行われた。双方とも海抜300㍍から900㍍の山間。青田県の水田養魚は600年以上の歴史があるといわれる。水田に入り込んだ川魚が成長することはよくあるが、青田県の人々は600年にわたって。田んぼでの養魚に知恵と工夫を重ねてきた。

 水田の水温が10度以上になるころに、生石灰をまいて軽く消毒し、薄い塩水で洗った稚魚を放流する。魚に寄生虫が繁殖しないよう、山からクスノキや松の枝を拾ってきて水田に浸す。魚はエサを探すとき、水面を波立てて、泥を掘り返す=写真・上=。これよって養分や生長空間を稲から奪うコナギやタイワンヤマイやコナギなどの水田雑草を魚が食べる。また、このときに稲も揺らすので、葉についた害虫が落ちる。これも食べる。魚のふんは天然の肥料なる。病虫害駆除、水田の除草と代替肥料に役立ち、稲作のじゃまにもならず、一枚の水田からコメと水産品の両方を生産することができる。これまでの実践経験から、養殖が稲作の収穫量を、稲作が漁獲量を押し上げるという相乗効果も工夫している。こうしてGIAHSが認定する「稲と魚との共生システム」をつくり上げてきた。

 方山郷の水田の稲穂を手に取って見ると、コシヒカリのようなジャポニカ米より少々長粒で大きい。10㌃当たり730㌔の収穫と説明があった。すると佐渡市からの参加者からは「うちは570㌔だ。これはすごい」と驚きの声が。水田で養殖する魚は「田魚」と呼ばれるコイの一変種で、色は黒、赤、黄、白の4種類。ウロコが軟らかい。活き魚で1㌔100元(現在1元=12円)、また「田魚干」として人気があるワラとヌカで燻し、さらに炭火で乾燥させたものは1㌔300から400元と贈答用としても人気がある、という。この村では田魚を嫁入り道具にする習わしがある。また、田魚の踊りもある。

 では、GIAHS認定で地域がどうかわったのか。小舟山郷=写真・下=の水田養魚組合の組合長から話が聞けた。郷では1980年代には4000ムー(畝=6.67㌃)もあった養魚の田んぼは2006年には2400ムーに激減した。そのころの養魚(生)の価格は1㌔20元だった。仲卸の業者が個別に買い付けにきていた。GIAHS認定を境に徐々に値上がりし今年2012年には1㌔100元となった。2006年に水田養魚組合を組織し、組合による農家からの買い入れや共同出荷、干乾しの加工も手掛けている。魚も住める安心安全な米として、米は1㌔6元(市場価格)で中国では高値だ。最近では菓子メーカーと契約話が進んでいる。養魚水田の面積を増やす方向だ。

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