自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆里海と子どもたち

2017年10月12日 | ⇒キャンパス見聞
   能登半島の先端、能登町に一般社団法人「能登里海教育研究所」がある。今月6日に同研究所などが主催する「里海科研究発表会・能登の海洋教育シンポジウム~里海と地域連携教育~」が開催され、聴講に出かけた。この一般社団法人が設立する際に関わったこともあり、どのような教育活動がなされているのか関心があった。

    会場は同町立小木(おぎ)小学校。この小学校は文部科学省の特例校に指定されている。この特例校というのは、学習指導要領によらない教育課程を編成して実施することを認める制度で、同小学校は独自の「里海科」を持っている。小学校がある小木地区はイカ釣り漁業が盛んで、地域の生業(なりわい)を初等教育から学ぼうと3年前に開始した。一般社団法人はそうした町教育委員会の動きを支援しようと金沢大学の教員や地域の有識者が構成メンバーとなり、日本財団からファンドを得て設立された。

   同小学校では、たとえば5・6年生の里海科では35時間を使って、漁師の仕事と水産業、海運業、海洋資源、海の環境保全など学ぶ。シンポジウムでは前半に公開授業が、5年生の教室では「日本の水産業」、6年生の教室では「漁師の仕事」をそれぞれテーマに児童たちの話し合いも行われていた。子どもながらイカ釣り漁業の作業工程などしっかりと話しているという印象があった。子どもたちは日頃から父親や祖父から生業について聞いてる。それを授業で語り合うとなると、子どもたちも自然と語り口調にチカラが入るのかもしれない。熱い語りぶりに思わずほくそ笑んだ。

   シンポジウム後半は体育館で、「海洋教育の実践~豊かな自然とアクティブラーニング~」をテーマにポスターセンション、続いて「海洋教育の未来像:学校と地域の連携」をテーマとしたパネルディスカッションがあった。小学校だけではなく、中学や高校の教諭らが能登の豊かな自然環境をハイレベルな海洋教育の実践の場として活用していることが実感できた。

   ただ個人的にはパネルディスカッションなどを聴いていて何か物足りなさを感じていた。シンポジウムの締めの挨拶に立った同小学校の校長の話を聞いてその思いが晴れた。話の中ほどにさりげなくこう触れた。「小木のイカ釣りですが大和堆では北朝鮮の漁船が近寄ってきてイカ漁をするのでうまくいっていない現実もあります」と。

    日本の排他的経済水域(EEZ)の大和堆に北朝鮮の木造船が群れでやってきて、イカの集魚灯を照らす日本のイカ釣り漁船に近寄り、網でイカを採る。イカ釣り船はその網が船のスクリューに絡まって船が破損しないか警戒している。現実に大和堆での漁を断念する漁船が続出している。校長はその現実に触れたのだ。

   教育の現場でいつも問われるのは現実感覚ではないだろうか。子どもに現実を教えても教育にはならないと考えるプロは大半だろう。ところが、小木の漁師の家庭の子どもたちは父や祖父から実際に北朝鮮の話を聞いて知っている。その憤慨して語る姿を目の当たりにしているのだ。締めの挨拶とはいえ、校長がその現実にあえて触れたことは意味があると思った。里海科に日本海で起きているイカ釣り漁の現実をテーマに、漁業をめぐる国際問題を話し合ってみたらどうだろうか。小木の子どもたちは意外と領海、EEZ、安全保障など熱く語るかもしれない。

⇒12日(木)朝・金沢の天気   あめ
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする