自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★さいはてのアート <中>

2017年10月18日 | ⇒トピック往来

   これはパロディ・アートだと直感した。最初は笑いが込み上げ、後は少々悲しくなる現実と直面するのがこの作品だ。「神話の続き」(作者:深沢孝史)は笹波海岸に創作された「鳥居」である。青空と青い海に映える白い鳥居は印象深い。説明看板には平成29年建立の「環波(かんなみ)神社」で、海と漂着物を信仰する神社、と記されている。

    ~現代の漂着神は海の向こうからの廃棄物、文明の大いなるパロディ~

    2礼2拍手1礼で鳥居をくぐった。よく見ると、鳥居の柱やしめ縄まで、すべて廃棄物なのだ。ボリタンクやペットボトル、漁具など。しかも、ハングル文字や中国語、ロシア語の表記のものが目立つ。日本語のものもある。しめ縄は廃棄された漁網だろうと想像がついた。この周辺で集めた廃棄物で相当の量に驚く。海にはこれほど廃棄物が漂着しているのか、と。

   かつて能登には寄神(よりがみ)信仰があった。文明が大陸からもたらされた時代、海から漂着した仏像や仏具などは神社にご神体として祀られ、漂着神となった。神は水平線の向こうからやってくるという土着の信仰だ。時代は流れ、現在の寄神は最良の廃棄物なのである。その廃棄物で造った鳥居に2礼2拍手1礼するのかと、たっぷりと皮肉が込められていて、思わず笑ってしまう。

   作者の深沢氏はさらに突っ込んだ解釈でこう述べている。「人間たちは、電気を供給する役目を終えてあまりある力を持つ廃棄物=神様を埋葬するために、ガラスの棺に納め、さらに土で周りを囲い、地の底まで埋めて供養することにしました」(説明看板)。廃棄物は海だけでなく、陸にもある。それは、放射性廃棄物だと暗示している。

         この作品を見ながら、ふと、国連環境計画(UNEP)のアルフォンス・カンブ氏の言葉を思い出した。カンプ氏が「いしかわ国際協力研究機構(IICRC)」の所長時代に金沢で知り合い、何度か能登視察に同行したことがある。廃棄物が漂着した海岸を眺めながら、「日本海の環境を守る能登条約が必要ですね」と。もう10年前のことだが、カンプ氏は日本海は生け簀(いけす)のような小さな海域であり、このまま放置すれば大変なことになるとカンプ氏は危機感を抱いていた。地中海の汚染防止条約であるバルセロナ条約(1976年)が21ヵ国とEUによって結ばれ、地中海の海域が汚染されるのを何とか防いでいる。「能登条約」、遅まきながらその必要性を実感した。

⇒18日(水)朝・金沢の天気   はれ



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