アメリカのトランプ大統領はやはり赤いネクタイだった。ズボンのチャック辺りまで長く垂らす、見慣れたスタイルだ。この赤いネクタイは「勝負ネクタイ」というより、平常心を保つための「落ち着きネクタイ」ではないのか。きょう12日午前、シンガポールで北朝鮮の金正恩党委員長の2人だけの会談に入る前のトランプ氏の姿を視聴した印象だ。
その2人の会見の様子で気になった言葉は、金氏の「ここまでくるのは容易ではなかった。我々の足をひっぱる過去があり、誤った偏見と慣行が我々の目と耳をふさぐこともあったが、我々はそのすべてを乗り越えてここまで来た」と述べて笑みを見せたことだ。この「我々」とは金氏とトランプ氏の2人のことなのか、あるいは北朝鮮の国を指すのか。「我々」の解釈によって意味が全く違う。北朝鮮の国を指す場合は、相手(アメリカ)を罵っているように聞こえる。このフレーズ全体を聞けばやはり金氏の「我々」は北朝鮮の国を指す。ところが、トランプ氏は「その通りだ」と応じ、再度握手した。通訳を介しての対話なので、トランプ氏には「We」と伝えられ、金氏とトランプ氏の2人のことと解釈したに違いない。
「朝鮮戦争の終戦宣言」と「核あり統一」の複雑化
2人だけの会談の内容については午後にトランプ大統領が記者会見するようだが、最近の米朝首脳会談の論調で気になることがある。それは「完全な非核化」と併せて「朝鮮戦争の終戦宣言」をトランプ氏サイドから打ち上がっていることだ。
首脳会談で「完全な非核化」がこじれ、とりあえずの成果として「朝鮮戦争の終戦宣言」が優先した場合、この歴史的な対話は少々おかしな方向うのではないかと考え込んでしまう。というのも、終戦宣言となれば、次は南北の統一だろう。当面は一国二制度かもしれない。とすると、核を保有したままで半島統一となる可能性も出てくる。実際、日本と違って韓国では核兵器の保有論は一定の支持を得ている。韓国ギャラップの調査(2017年9月5-7日、1004人対象)では韓国の核保有に賛成する意見は60%で、反対は35%なのだ(2017年9月9日付・産経ニュース電子版)。
韓国の文在寅大統領は、これまでの外交成果を軸に北朝鮮と交渉を続けるだろう。北朝鮮の非核化を前提としての交渉ではなく、「一国二制度」のような構想を互いに模索するのかもしれない。そうすれば、韓国にとって在韓米軍や米韓軍事演習も不要となる。さらに核保有国として、近隣諸国に睨みを効かせることができる。「いつの間にか韓国は核保有国」のシナリオで描いているのではないだろうか。それを国民も反対しないとなれば、なおさらである。
「核なき統一」は日本もアメリカも国際社会も望むところだ。それが「核ありの統一」ということが鮮明になった場合、日本の外交スタンスもガラリと変わる。油断ならない。(※写真は米朝首脳会談の様子を伝えるTBSWeb版)
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