自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆アルツ新薬の論調 「重要な節目」か「大きな誤り」か 

2021年06月09日 | ⇒メディア時評

      きのうのブログでも取り上げた、アルツハイマー病の新薬のニュース。世界で3000万人もの患者がいるといわれるだけに関心が集まる。メディアはどのように取り上げているのか。

   アメリカの製薬会社「バイオジェン」と日本の「エーザイ」が開発したアルツハイマー病の新薬「アデュカヌマブ」について、アメリカのFDA(食品医薬品局)は原因と考えられる脳内の異常なタンパク質「アミロイドβ」を減少させる効果を示したとして治療薬として承認した(6月8日付・NHKニュースWeb版)。これまでの治療薬は、病気によって脳の神経細胞が壊れていくこと自体を止めることはできず、症状の悪化を数年程度、遅らせるものだった。承認された新薬は、アミロイドβを取り除く効果が認められ、病気の進行そのものを抑える効果が期待される初めての薬となる(同)。

   イギリスBBCニュースWeb版(6月8日付)は「US approves first new Alzheimer's drug in 20 years」の見出しで伝えている=写真=。記事によると、過去10年間で100以上の治療薬の候補の開発が失敗に終わっている。「アデュカヌマブ」も、3000人の患者が参加したの国際的な後期臨床試験では、同薬を月1回投与された患者に、偽薬を投与された患者よりも記憶や思考の問題の悪化を遅らせる効果はみられないとの分析結果が出たため、2019年3月に臨床試験が中止となっていた。が、同年末、開発2社はデータ分析から、より高用量で投与すれば薬が有効であり、認知機能の低下を大幅に抑制すると結論付けた。

   この臨床試験結果のプロセスから、科学者の間では同薬の効果について意見が割れていると、BBCは専門家のコメントを紹介している。克服すべき多くの障壁があるももの、「a hugely significant milestone」(非常に重要な節目)と前向きなコメント。FDAが認知や機能の低下の減速を示さない試験からのデータを無視した「a grave error」(重大な誤り)の声も。一方で、「this is a drug with marginal benefit which will help only very carefully selected patients.」(この薬はせいぜい、非常に注意深く選ばれた患者にわずかな効果しかないもの)とのコメントも。また、イギリスの慈善団体は国内でも早く承認するよう動いていると紹介している。

   今回のFDAの承認は、深刻な病気の患者に早期に治療を提供するための「迅速承認」という仕組みで行われたため、FDAは追加の臨床試験で検証する必要があるとしていて、この結果、効果が認められない場合には承認を取り消すこともある、としている。

  「アデュカヌマブ」については日本でも昨年12月に厚生労働省に承認の申請が出されている。きのう8日の記者会見で、加藤官房長官は長は記者の質問に答えて、「我が国でも実用化されれば、認知症施策推進大綱が掲げる共生と予防の推進に資する」「厚労省でもPMD(医薬品医療機器法)に基づいて審議を進めている」と前向きなコメントを述べている(総理官邸公式ホームページ)。

   「エーザイ」の公式ホームページによると、アメリカ人の平均体重である74 kgに対しての点滴投与は1回当たり4312㌦、4週間に1回の投与で年間コストは5万6000㌦、つまり610万円となる。これが健康保健適応となれば、これはこれで新たな財政的な問題が。日本でのアルツハイマー病の患者は360万人ともいわれる。
 
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