自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆香港を覆う「ブラック・レインストーム」

2021年06月28日 | ⇒ニュース走査

          中国政府への批判を続けてきた香港の新聞「蘋果日報(アップル・デイリー)」が今月24日付を最後に発行停止に追い込まれ、紙面の主筆や中国問題を担当する論説委員も逮捕されたと報じられている(6月27日付・メディア各社)。香港国家安全維持法(国安法)違反の容疑だ。香港で反政府的な動きを取り締まる国安法が2020年6月30日に施行されて1年となる。香港政府とバックの中国政府の狙いは何か。

   国安法では、裁判は陪審員なしで秘密裏に行われ、裁判は中国政府の当局に引き継がれる。中国政府の治安要員は、免責されたまま香港で合法的に活動することができる。中国政府には、この法律は民主化運動で揺らいだ領土の安定を取り戻し、本土との整合性を高めるとの狙いがあるようだ。

   最初に適用されたのは昨年7月。香港で国安法に抗議する民衆デモで370人が逮捕され、うち10人が「香港独立」の旗を所持していたとして国安法違反の適用となった(2020年7月2日付・共同通信Web版)。その後、国安法をタテに政治活動や言論への締めつけが強まる。この法律が導入された後、多くの民主化運動グループが安全性を恐れて解散。自由で寛容な国際都市と言われてきた香港の姿が一変した。

   蘋果日報が狙い撃ちされたのは昨年8月だった。創業者の黎智英(ジミー・ライ)氏が国安法と詐欺の容疑で逮捕された後、保釈された。12月に詐欺罪での初公判が開かれ、保釈申請は却下、即日収監された(同12月3日付・読売新聞WEB版)。では、詐欺罪はどのような内容だったのか。蘋果日報を発行する「壱伝媒」の本社がある不動産の貸借契約に反し、黎氏が別会社に一部を提供して不正に利益を得たとして詐欺罪に問われた(同)。つまり、「また貸し」が詐欺として罪に問われたというのだ。日本では民事のような案件だが、香港では刑事事件として問い、収監におよぶところに政治的なむき出しが見て取れる。

   蘋果日報への狙い撃ちは「見せしめ」の狙いもあるだろう。報道機関への弾圧に他の新聞・テレビも当初は強い怒りを感じただろう。しかし、そのメディアの義憤は次第に無力感へと変質しているに違いない。また、香港市民や企業も取材相手として関わることを恐れ、敬遠するようになっていたのではないだろうか。

   きょうのイギリスBBCWeb版(6月28日付)は「Black rainstorm' warning suspends Hong Kong trading」の見出しで、香港では暴風雨警報が発令され、雨量は70㍉以上の「黒い暴風雨」が予想されると報じている=写真=。このため、香港の証券市場とデリバティブ市場の取引が中止された。また、安全上の懸念から、学校の授業やワクチン接種も中断されている。痛ましいばかりの「ブラック・レインストーム」が香港を覆う。

⇒28日(月)午前・金沢の天気   くもり時々はれ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする