先月発行の月刊誌「文藝春秋」(11月号)の「財務次官、モノ申す 『このままでは国家財政は破綻する』」の記事を再度読んだ。現職の財務事務次官による、強烈な政治家批判だ。原稿は「最近のバラマキ合戦のような政策論を聞いていて、やむにやまれぬ大和魂か、もうじっと黙っているわけにはいかない、ここで言うべきことを言わねば卑怯でさえあると思います。」で始まる。名前は伏せているが、岸田総理が自民党総裁選で主張した「数十兆円もの大規模な経済対策」や、立憲民主党の枝野代表が公約として掲げる「消費税率の引き下げ」などを痛烈に批判している。そして、しめくくりで「日本が氷山に向かって突進していることだけは確かなのです。」と述べている。 国庫には無尽蔵にお金があるはずがない。財政規律を唱えて当然だ。しかし、政治家は選挙を前に必死に財政出動を訴える。この記事を再度読み返したのも、自民と公明の両党で協議している「18歳以下の子どもに10万円相当を給付」の件が連日報道され=写真=、はたしてこれが新型コロナウイルスの経済対策となるのかと疑問がわいたからだ。財務事務次官が述べているように、ただの「バラマキ合戦」ではないか。
きょう特別国会が召集され、第2次岸田内閣が発足する。コロナ禍が収束傾向を見せる中で、その経済対策としての「18歳以下の子どもに10万円相当を給付」がどれほどの効果があるのか、多くの有権者は疑問に思っているに違いない。選挙での公約はあくまでも人気取りだ。支持を得たいがためにバラマキ合戦となるが、ツケは必ず国民に回ってくる。なにしろ、国と地方を合算した長期債務の残高は1200兆円に上り、GDPのおよそ2.2倍。主要先進国の中で群を抜いて高い(「財務省」公式ホームページ)。
そんな中で、18歳以下の全員に10万円相当を配れば、対象はおよそ2000万人いるので、2兆円程度の補正予算が必要となる。所得制限(年収960万円)が設けられたとしても、バラマキと有権者の目には映るだろう。「はたしてこれがコロナ禍の経済対策か」と。
アメリカのPR会社「Edelman(エデルマン)」が2020年4月に世界11ヵ国の1万3200人を調査した結果がネットで掲載されている。調査結果によると、中央政府に対する信頼度はトップが中国の95%、2位はインド87%、アメリカは10位の48%、そして日本は最下位の38%だった。先の総選挙で自民党は単独過半数の議席を確保した。ただし、国民の間では借金を重ねる政府の有り方に閉塞感を持っているのではないだろうか。それがこの数字ではないか。そして、冒頭の「日本が氷山に向かって突進していることだけは確かなのです。」は財政の「日本沈没」を予感をさせる。
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