国の特別天然記念物であり、学名が「 Nipponia nippon(ニッポニア ニッポン)」で知られる国際保護鳥のトキ。環境省は佐渡市で野生復帰の取り組み進めているが、本州などでの定着をはかるため、放鳥候補地となる自治体の公募の開始を発表した。募集は6月30日までで、8月上旬をめどに3ヵ所程度を選定し公表する。2026年度以降の放鳥を目指す(環境省公式サイト・10日付「報道発表資料」)。
山口環境大臣は記者会見で「里地里山の保全再生が進み、地域の社会、経済活性化につながってほしい」と述べ、選定要件には、生息地となる水田など約1万5千㌶以上の広さのほか、原則、過去にトキの生息実績があり、地域で連携して生息環境を整備できることなどを挙げた(10日付・共同通信Web版)。
環境省の候補地選定の動きをとらえて、石川県と能登の4市5町、関係団体は今月6日、「能登地域トキ放鳥受け入れ推進協議会」を設置し初会合を開いた。馳知事は「放鳥によって石川県の世界農業遺産に登録されている地域の農業に一層の付加価値を与える」と述べ、放鳥実現を目指していく考えを強調した(7日付・読売新聞石川県版)。
1970年1月、本州最後の1羽だったトキが能登半島で捕獲された。オスで「ノリ(能里)」の愛称があった。繁殖のため佐渡のトキ保護センターに送られたが、翌1971年に死んだ。解剖された能里の肝臓や筋肉からはDDTなどの有機塩素系農薬や水銀が高濃度で検出された。2003年10月、佐渡で捕獲されたメスの「キン」が死んで、日本のトキは絶滅した。同じ遺伝子の中国産のトキの人工繁殖が進められた。
では、能登が放鳥候補地に選定されたとして、トキの生息は可能化なのか。2007年、金沢大学の「里山里海プロジェクト」の一環として、トキが再生する可能性を検証するポテンシャルマップの作成に参加したことがある。珠洲市や輪島市で調査地区を設定した。まず始めたのは生物多様性の調査だった。奥能登には大小1000以上ともいわれる水稲栽培用の溜め池が村落により維持されている。溜め池は中山間地にあり、上流に汚染源がないため水質が保たれている。ゲンゴロウやサンショウウオ、ドジョウなどの水生生物が量、種類とも豊富である。溜め池の多様な水生生物は疏水を伝って水田へと分配されている。
また、能登はトキが営巣するのに必要なアカマツ林が豊富である。また、能登はリアス式海岸で知られるように、平地より谷間が多い。警戒心が強いとされるトキは谷間の棚田で左右を警戒しながらドジョウやタニシなどの採餌行動をとる。豊富な食糧を担保する溜め池と水田、営巣に必要なアカマツ林、そしてコロニーを形成する谷という条件が能登にあることが分かった。ただ、14年前の調査なので、その後の環境に変化はあるかもしれない。
2011年6月に「能登の里山里海」が世界農業遺産(JIAHS)に認定されて10年になる。候補地に選定されることで、トキの放鳥が里山里海のあり様を描く次なるメルクマールになるに違いない。
(※写真のトキは1957年に岩田秀男氏撮影、場所は輪島市三井町洲衛)
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