自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★「たかが気球」で済まさない アメリカに漂うピリピリ感

2023年02月14日 | ⇒ニュース走査

   「たかが気球」と思っていたが、問題がエスカレートして、まるで開戦前夜の様相になってきた。気球は国際法上、航空機に位置づけられ、他国の領空に侵入するのは国際法に基づく領空侵犯となる。ここ10日間の動きを時系列で追ってみる。

   アメリカ軍は現地時間で今月4日午後、軍事施設を偵察する中国軍の気球を南部サウスカロライナ州の沖合の上空でF22ステルス戦闘機から空対空ミサイル1発を発射し、海に撃墜させた。これに対し、中国側は「私たちの気象観測気球がコース外に吹き飛ばされたのは遺憾だ」「アメリカの政治家とメディアは誇張している」「アメリカがこの飛行物体を攻撃したのは国際慣例の深刻な違反だ」などと述べた(6日付・BBCニュースWeb版日本語)。

   アメリカ連邦議会下院は9日、中国の偵察気球がアメリカの主権を侵害したとして中国共産党を非難する決議案を419対0の全会一致で採択した。アメリカ議会では特に共和党から、バイデン政権はアラスカ州沖で気球を発見した時点で撃墜すべきだったと、政権対応を批判する声も高まっているが、下院が一致団結して中国に対する姿勢を明確にしたものとして注目に値する(10日付・JETRO「ビジネス短信」)。

   FBIは回収した気球の残骸の分析を行い、この気球の製造に中国企業など6社が関わっていたと判断し、バイデン政権は10日に6社を禁輸リストに追加した。禁輸リストはアメリカの国家安全保障と外交政策に反する活動に携わる企業や団体が対象となる。

   さらに3日連続の撃墜。アメリカ軍は10日にアラスカ州の上空で「小型車のサイズ」の飛行物体を、11日にカナダ北西部のユーコン準州の上空で「円筒形」の飛行物体を、さらに12日にアメリカとカナダの国境付近にある五大湖の一つ、ヒューロン湖の上空で「八角形の構造」の飛行物体を、それぞれ撃墜している(13日付・BBCニュースWeb版)。アメリカ議会下院で非難決議が採択され、徹底して未確認飛行物体を追撃している。メディアも連日大きく報道している。神経過敏と言えるほどに、だ。

   ここからは憶測だ。幼いころ、父親から聞いた話だ。太平洋戦争で、日本軍はアメリカ本土に「風船爆弾」を飛ばしていた。「ふ号兵器」と称した、気球に掲載した小型爆弾だった。偏西風を利用してアメリカに向けて飛ばし、山火事などを各地で火災を発生させた。当時、日本国内では知られた話だった。父親は陸軍の軍曹で仏印(ベトナム)に進軍していたので、風船爆弾とは直接的な関わりはなかったが、戦友たちから聞いた話として語ってくれた。

   アメリカはベトナム戦争のとき、本土空襲を受けたことは一度もないと言い続けていた。おそらく国内の戦意を高揚させるために、戦争に強い国家を喧伝したのだろう。そのアメリカに軍事施設を偵察する中国軍の気球が飛んでいた。たんなる領空侵犯問題ではなく、まさに国家の威信にかかわる出来事としてバイデン政権をはじめ共和党も受け止めているのかもしれない。そのピリピリとした緊張感が伝わってくる。(※写真は、6日付・ CNNニュースWeb版)

⇒14日(火)夜・金沢の天気    あめ時々ゆき


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