能登半島地震で伝統的な農村文化が失われるのではないか、そんな危機感が漂っている。前回ブログで、輪島市にある白米千枚田で多数のひび割れが入ったことから、1枚でも多く棚田を耕すことで復興の希望につなげたいと地元の愛耕会のメンバーが当初予定していた60枚を120枚に増やして田植えにこぎつけたいきさつを紹介した。
白米千枚田は2001年に文化庁の「国指定文化財名勝」に指定され、2011年に国連世界食糧農業機関から認定された世界農業遺産「能登の里山里海」のシンボル的な存在。こうした評価の重荷を背負いながら愛耕会のメンバーは努力を重ねたものの、それでも「1000分の120」にとどまった。
さらに、危機感を漂わせる事例がある。農耕儀礼の「あえのこと」。奥能登(輪島市、珠洲市、穴水町、能登町)の農家の家々では、田んぼの実りに感謝し、目が不自由とされる田の神をごちそうでもてなす行事がある。1976年に国の重要無形民俗文化財に指定され、2009年に単独でユネスコ無形文化遺産に登録されている。千枚田と同じく能登の世界農業遺産のシンボル的な行事でもある。(※写真は、能登町「合鹿庵」で執り行われた農耕儀礼「あえのこと」。田の神にコメの出来高などを報告する農業者=2016年12月5日撮影)
この農耕儀礼は各農家がそれぞれの家で行う行事であり、一般公開を前提としたものでも義務でもない。そのため、世代の替わりで儀礼の簡略化や止める農家が多く、農耕儀礼の継承そのものが希薄となっていた。そこに地震があり、奥能登では農地の亀裂など538件、水路の破損655件、ため池の亀裂や崩壊が165件、農道の亀裂や隆起などの損壊が398件に上った(3月26日時点・石川県農林水産課のまとめ)。このため、奥能登の田植えの作付面積は去年の2800㌶から1600㌶に落ち込む見通しとなった(同)。
田んぼを耕さなければ農耕儀礼はない。田の神はこの奥能登の現実をどう想っているだろうか。
⇒13日(月)夜・金沢の天気 くもり
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