自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★「里山海道」への道~下

2013年04月18日 | ⇒ドキュメント回廊

   石川県の谷本知事のトップセールが奏功し、国連国際生物多様性年だった2010年のクロージングのイベント(生物多様性条約事務局、日本政府主催)が12月18、19日の両日、石川県で開催された。この国際生物多様性年のキックオフイベントは1月11日にベルリンで、10月18-29日の生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)は名古屋市で開催された。石川でのクロージングイベントは締め括りであり、2011年の国際森林年への橋渡しのイベントでもあった=写真・上=。COP10では「SATOYAMAイニシアティブ」が採択され、里山が国際用語として認知された。そして、能登半島がSATOYAMAのエクスカーション(視察旅行)の公認コースになった。

   クロージングイベントの表舞台では、国際イベントが打ち上げられる一方、能登の里山をめぐる別の動きが舞台裏で進行していた。12月17日の締め切りを目指して、農林水産省北陸農政局、石川県庁、能登の8市町の行政マンたちが、国連食糧農業機関(FAO、本部ローマ)に提出する申請書類の準備に追われていた。世界農業遺産(GIAHS=Globally Important Agricultural Heritage Systems)の申請書類である。申請名は「Noto's Satoyama and Satoumi(能登の里山里海)」。

   GIAHS(ジアス)という言葉を私自身が初めて耳にしたのは2010年6月だった。国連大学高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニットのあん・まくどなるど所長が案内役となって、FAOのパルビス・クーハフカンGIAHS事務局長が能登を視察に訪れた。金沢大学の「能登里山マイスター」養成プログラムの取り組みを案内してほしいと依頼があり、里山と里海の景観が広がる金沢大学能登学舎(珠洲市)や輪島市金蔵(かなくら)地区を回り、古いたたずまいの農家レストランで昼食をご相伴させていただいた。パルビス氏は里山マイスターの授業で取り組んでいる水田での生物多様性実習について説明を受け、能登の田んぼで採集され昆虫の標本を食い入るように見ていたのが印象的だった=写真・中=。この翌日(6月5日)、国連大学の武内和彦副学長(東京大学教授)やパルビス氏、あん所長、中村浩二金沢大学教授、農林水産省北陸農政局の角田豊局長が出席して「里山とGIAHS」をテーマに金沢市文化ホールでワークショップが開催された。この視察とワークショップがGIAHSへのキックオフであり、1年後にGIAHS認定にこぎつけた。

   2011年6月11日、中国・北京。国連食糧農業機関(FAO)主催のGIAHS国際フォーラム3日目、この日は午前9時からGIAHSの認証式=写真・下=があり、新たに日本から申請していた能登4市4町の「能登の里山里海」と佐渡市の「トキと共生する佐渡の里山」のほか、インド・カシミールと中国・貴州省従江の農村の代表にそれぞれ認定書が授与された。同日の夜の懇親会はまるで「世界民謡大会」の様相を呈していた。ホスト国の中国ハニ族の人たちがステージに上がり土地の民謡を歌うと、続いて能登半島・七尾市から武元文平市長に随行してきた市職員が祝い歌「七尾まだら」を披露した。武元氏もステージに上がり手拍子を打った。朗々としたその歌はどこか懐かしい響きがした。そして、ケニア・マサイ族、ナイジェリアの参加者が続々とステージに上がり土地の歌を披露したのだ。最後に佐渡市の高野宏一郎市長が「佐渡おけさ」を歌い、市職員2人が踊り、ステージを締めくくった。会場は盛り上がった。その後、ハニ族の参加者代表が武元氏の元に駆け寄ってきて、「気持ちが通じ合いますね」と握手を求めた。

   能登の里山里海がGIAHS認定された意義は大きい。上述したように、COP10で「SATOYAMAイニシアティブ」が採択され、里山はもはや国際語である。SATOYAMAが海外で広く紹介されたのは1999年のこと。イギリスBBC放送が、NHKのドキュメンタリー番組『映像詩 里山』を動物学者で番組プロデューサーのD・アッテンボロー氏のナレーションで吹き替えて、番組『SATOYAMA』として放送したところ、これが欧米で反響を呼んだ。日本の里山の国際評価として「能登の里山里海」と「トキと共生する佐渡の里山」がある。つまり、日本の里山の代名詞として能登と佐渡がある。

   ところで、GIAHSを直訳すれば「世界重要農業資産システム」である。今は通称「世界農業遺産」と呼ばれている。では、最初にそう呼んだのは誰か。国連大学の武内氏である。「石川県の谷本知事とGIAHSの呼び名について話していて、世界重要農業資産システムだと日本国内ではピンとこない。そこで、世界農業遺産だったら知名度が上がるかもしれないと・・・」(2012年7月17日、佐渡市での第2回生物の多様性を育む農業国際会議の基調講演)。

   里山里海をキーワードに「のと里山海道」の名称の由来を出来事を中心にたどってみた。そして来月5月29日にGIAHS国際フォーラムが能登半島・七尾市の和倉温泉で開催される。新たなGIAHSの認定地などが採択される。同フォーラムは、2007年のローマ、2009年のブエノスアイレス、2011年の北京に続き4回目の開催となる。11ヵ国の認定地の人々が「のと里山海道」を伝って能登のフォーラム会場にやってくる。

⇒18日(木)朝・金沢の天気    はれ


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