自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★啓蟄 萌え出づる生物多様性

2021年03月05日 | ⇒トピック往来

    きょうは二十四節気の一つ「啓蟄(けいちつ)」だ。冬ごもりしていた虫が春の気配を感じ姿を現わし出すころ。虫に限らず、さまざまな生き物が目覚める。万葉の時代から、この春の感覚は共有されていたようだ。「石ばしる垂水の上のさわらびの 萌え出づる春になりにけるかも」(志貴皇子)。雪解けの水が岩からほとばしる滝のほとりに、ワラビが芽を出す春がきた、と。地上に生命力があふれる季節がめぐってきた。

   啓蟄にちなんで、このブログで取り上げてきた生物多様性にちなむ名言を紹介したい。コフィ・アナン氏(元国連事務総長)の言葉だ。「生物多様性は生命そのものにとっての生命保険でもある。農業や文化の多様性や生物多様性は、我々の生命維持システムにとって重要であり、保険のような存在。生物多様性が優れていればいるほど、我々は将来の問題に備えて保険をかけることができる。キノア(アンデス地方で栽培される雑穀)は種ごとに違った病気に強いという性質があり、全体として非常に病気に強い、生物多様性に富んだ農場が数多くある。これは、現在と将来の世代にとって重要なことだ」

   能登半島を4度訪れたパルビス・クーハフカン氏(元FAO世界農業遺産事務局長)が2013年2月に開催された国際セミナーで語ったこと。「私は能登の一部で、農薬の使用をやめた所を見学させていただいた。そこでは有機栽培でコメが生産されており、少しずつ水田にカエルや動物、様々な種類のヒルやミミズ、貝類が戻ってきていた。生態系や生物多様性を回復するだけでなく、自然の中のある種のバランスが取り戻され、農薬や肥料の必要がなくなるため、これは非常に重要なことだ。このような自然なシステムがもっと増えれば、きっと水田に魚が増え、GIAHS(世界農業遺産)がいっそう改良される」

   そのパルビス氏が初めて能登を訪れたのは2010年6月だった。国連大学高等研究所の研究員らとともに金沢大学の能登学舎(珠洲市)で、研究スタッフから能登の里山里海の地域資源を活用する地域人材の養成の仕組み、とくに生物多様性など環境配慮の水田づくりの実習カリキュラムなどについて説明を受けた。目を輝かせてのぞき込んだのが水田で採取した昆虫標本だった=写真=。標本をカメラに撮りながら、「この虫を採取したのは農家か」「カエルやヒルやミミズ、貝類の標本はあるか」と矢継ぎ早に質問も。フランスのモンペリエ第2大学(理工系)で生態学の博士号を取得し、専門は天然資源管理や持続可能な開発、農業生態学だ。   

           昆虫標本を見終えて、パルビス氏は「若者の人材養成に昆虫標本の作製まで 取り入れているプログラムはレベルが高い」「能登の生物多様性と農業の取り組みはとても先進的だ」と評価。翌年2011年6月のGIAHS北京フォーラムで審査された「能登の里山里海」と佐渡市の「トキと共生する佐渡の里山」がとともに日本で初めて世界農業遺産に認定された。パルビス氏がよく口にする言葉は「バイオ・ハピネス(Bio-Happpiness)、自然と和して生きようではないか」だ。

⇒5日(金)午後・金沢の天気     あめ


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